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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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Japan Times ST連載

2013年8月11日 (日)

ヒロイン登場?

The Japan Times ST》に連載中の「ダ・ヴィンチ・コッドに挑戦!」では、脱力パロディ本 The Da Vinci Cod を課題として、翻訳にまつわるあれこれを書かせてもらっています。

 このブログでも、いままでに登場人物の名前にまつわる話などを何度か書いてきました。

 主人公のロバート・ドングラン(Robert Donglan)と捜査主任のターシュ警部(Tash)は、もちろん『ダ・ヴィンチ・コード』のロバート・ラングドン(Robert Langdon)とファーシュ警部(Fache) を意識した名前なので、音韻が似た訳語を宛てています。

 一方、冒頭で死体が発見される館長の名前は Jacques Sauna-Lurker。この名前をどう処理すべきかについては、以前「Sauna-Lurkerをどう訳すか」という記事に書きました。

 さて、いま出ている8月16日号(連載第22回)の最後に、この作品のヒロインが登場します。名前は Sophie Nudivue。『ダ・ヴィンチ・コード』のヒロインの名前はソフィー・ヌヴー(Sophie Neveu)でしたが、今回はどう処理すればいいでしょうか。上の「Sauna-Lurkerをどう訳すか」を参考にして、考えてみてください。おもしろいのを考えついた人は、よかったらメールかツイッターで教えてください。

 次回の記事(連載第23回)が載る9月6日号(9月1日ごろ発売)が出たころに、あらためてこのブログでも言及します。名訳・珍訳をたくさん紹介したいと思っています。

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2013年6月 1日 (土)

『ダ・ヴィンチ・コッド』翻訳コンクールの結果について

 先日《The Japan Times ST》の紙上で開催された『ダ・ヴィンチ・コッド』翻訳コンクールの結果と講評が、いま出ている6月7日号(Vol.63 No.23)に載っています。癖のある難解な課題英文だったにもかかわらず、38名ものかたからご応募いただきました。ありがとうございます。優秀者3名のかたには、拙著『日本人なら必ず誤訳する英文』『日本人なら必ず悪訳する英文』のサイン入りセットをお送りします。

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 詳細については紙面を見てください。ここでは、記事に書ききれなかったことを少々補足します。応募した人以外にもわかるように書きますが、翻訳の初心者向きの内容になるのでご了承ください。

◎主人公ドングランの年齢については、本文に正確な記述がないのですが、『ダ・ヴィンチ・コード』のラングドンが40歳代なので、それと同等と考えるのが筋でしょう。ラングドンについて言えば、映画のトム・ハンクスは「ぼく」と言いますが、小説では「わたし」で、今回のドングランもそれに合わせて「わたし」にしてあります。

「わし」と訳した人がずいぶんいましたが、仮に60歳代、70歳代などであっても、安易に「わし」という訳語を選ぶのは禁物です。いまの時代に方言以外で「わし」としゃべる老人はほとんど見られないので、極端にじじくさくしたいのでもないかぎり、「わし」という訳語は選ばないのが無難でしょう

 ちなみに、私立探偵などが出てくるとなんでもかんでも「おれ」にしてしまう傾向が特に女性にありますが、これも考え物です。「おれ」にすることによって、かなりキャラクターはせばめられてしまうので、よほどぴったりの人物以外には使わない、ぐらいの気持ちでいたほうがいいと思います。

◎今回の課題英文で特に狙ったわけではありませんでしたが、否定省略文の読み方が苦手な人が非常に多いのをあらためて感じました。よかったら『日本人なら必ず誤訳する英文』を読んでみてください。全部で140問のうち、7問ほどをこのテーマにあててくわしく説明してあります。

◎翻訳の仕事を何年もつづけていて確実に言えるのは、辞書を引かなくてもよいほど言語に精通することはありえない、ということです。母国語である日本語についてすらそうなのですから、外国語については言うまでもありません。勉強すればするほど、仕事をすればするほど、辞書を引く回数は増えていくというのが実情です。キャリアの長い人ほど、そのことはよくご存じでしょう。今回は possiblities ということばが鍵となりましたが、初学者の人は、ちょっとでも気になったら辞書を調べる習慣を体に叩きこんでください。特に、本来抽象名詞であるものが複数形になっている場合は要注意です

◎「……」や「――」などの表記については、課題英文を載せた5月17日号でかなり細かく説明したにもかかわらず(つまり、訳文を提出した全員がその説明を読んでいるはずなのに)、今回の提出者でそのルールを守っていた人は半数以下でした。「――」2マスであるべきところを1マスにしたり、「ー」(音引き記号)や「_」(アンダーバー)にしたり、勝手に「…」や「、、、」に変えたり、さまざまです。

 今回は自由に楽しんで訳文を作ろうという趣向なので、あれこれ言うつもりはありませんが、もし将来なんらかの形で仕事につなげていきたいのであれば、まずはそういうところから直していってください。

 では、そういうルールはどこで教えてくれるのかと言うと、簡単なことで、世の中に出まわっている本、特に翻訳書でどのように書かれているのかを見て、そのとおりに真似ればいいだけです。

◎最後に、紙面で採りあげなかったみなさんの訳で、おもしろいと感じたものをいくつか紹介します。

・ritualism-ist と ritist の訳語(わたしの訳語は「儀式主義主義者」「儀式者」)

 「儀式シュギースト」「儀式ースト」(忠実です)

 「儀式主義者」「"ギ"主義者」(おもしろいですが、ちょっとわかりにくい?)

 「儀式家」「ピストン運動の儀式熟練家」(数回前にピストン運動の話が出てきたからですが、これはやりすぎ)

 「ぎしきしゅぎい者」「ぎいじつか」(くふうはわかりますが、意味がそれます)

・annagrammotologist の訳語(わたしの訳語は「アナグラモ学者」)

 「アンナグラム語の専門家」(忠実です)

 「つつつづりりりの音研究家」(これは笑いました)

 「暗コウ解読を専門とする学者」(このあと「どうしタラ」が出てきて、アンコウと並んで魚つながりがおもしろいです)

 「アナナグラムム学者」(わたしの訳語よりいいと思います)

 「過分解回文家」(すばらしい! ここだけなら最優秀です) 

 楽しい訳語が多く、こちらもいろいろとヒントをもらいました。あらためて、みなさん、ご応募ありがとうございました。

『ダ・ヴィンチ・コッドに挑戦!』の連載は、このあともつづいていきます。今後もよろしくお願いします。

The Japan Times ST》は、全国の書店や駅売店で購入できます(取扱店リストはこちら)。オンラインでは、このページ利用なさるのがいちばん早いと思います(紙版とデジタル版があります)。また、定期購読はこちらで申しこめます。

2013年5月13日 (月)

『ダ・ヴィンチ・コッド』翻訳コンクール開催

 以前から何度か予告していましたが、「ダ・ヴィンチ・コッドに挑戦!」を連載中の《The Japan Times ST》で、ミニ翻訳コンクールがはじまりました。『ダ・ヴィンチ・コード』のパロディ本である The Da Vinci Cod の一節(英文3行)を訳してもらうもので、どなたでも参加できます。これまでの連載をお読みになっていない人でも取り組めるようにヒントをつけてあるので、気軽に応募なさってください。応募要項は、発売中の5月17日号(Vol.63 No.20)に掲載されている連載第16回の記事内に載っています。締め切りは5月22日必着です(メール・郵送・FAXのいずれも可)。

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 The Da Vinci Cod  はことば遊びが満載の作品で、今回の該当個所にもいくつか含まれています。辞書にない単語もあり、そういう部分を自由に工夫しつつ、それでいて原文からは大幅には逸脱しない処理が必要になるかもしれません。こう書いてしまうとむずかしそうですが、以前の「Sauna-Lurkerをどう訳すか」のときのように、さまざまな楽しい訳が集まってくることをこちらは期待しているので、はじめての人もぜひ挑戦してください。

 最優秀者3名のかたに、サイン入り著書のセットをお送りする予定です。

The Japan Times ST》は、全国の書店や駅売店で購入できます(取扱店リストはこちら)。オンラインでは、このページを利用なさるのがいちばん早いと思います(紙版とデジタル版があります)。また、定期購読はこちらで申しこめます。

 最優秀者の発表と講評は、つぎの号(6月7日号、5月末ごろ発売)の連載記事内でおこなう予定です。

 多くのみなさんのご応募をお待ちしています。名訳も珍訳も大歓迎です。

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2013年4月 9日 (火)

《the Japan Times ST》のリニューアルと翻訳コンクール予告

「『ダ・ヴィンチ・コッド』に挑戦!」を連載中の《週刊ST》が、この4月に《the Japan Times ST》と改称し、紙面も全面的にリニューアルされました。レイアウトが大きく変わったのはもちろん、内容もかなり増強され、語学学習者・翻訳学習者の使い勝手が一段とよくなりました。

 とりわけ、これまでの一部の記事にあった、難解な英単語・熟語のすぐ下に和文の意味が書かれているというスタイルが完全に廃止されたというのは、大きな改善点だと思います。あのスタイルは一見便利そうですが、ほんとうに実力をつけたい人、単語や熟語を覚えたい人にとっては、むしろ邪魔でしかありませんからね。新しい紙面では、訳文や要旨が英文の前かあとに置かれ、語釈も1か所にまとまっています。

 連載 「『ダ・ヴィンチ・コッド』に挑戦!」については、内容の変更はありませんが、少しだけデザインが変わりました。

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 秋ごろまで月2回の連載なので、引きつづきよろしくお願いします。

 5月には連載の一環としてちょっとした翻訳コンクールを開催する予定なので、どうぞお楽しみに。詳細についてはまたこのブログでも紹介します。

 そのあたりで、ドングラン教授、ターシュ警部、サウナデネール館長に加え、珍妙な名前を持つ女性(『ダ・ヴィンチ・コード』の女主人公によく似た名前です)が登場します。この名前をどう「翻訳」するかも、なかなか興味深いところです。

2012年10月30日 (火)

Sauna-Lurker をどう訳すか

 発売中の《週刊ST》11月2日号に、連載「『ダ・ヴィンチ・コッド』に挑戦!」の第3回が掲載されています。

『ダ・ヴィンチ・コッド』のプロローグの冒頭は、"Jacques Sauna-Lurker lay dead in the main hallway of the National Art Gallery ..." という文ではじまります。これはもちろん、原典である『ダ・ヴィンチ・コード』の冒頭部分で、Jacques Saunière(ジャック・ソニエール)という人物の全裸死体がルーブル美術館の通路で見つかったことを下敷きとしたパロディです。それを踏まえたうえで、Jacques Sauna-Lurker という名前をどう訳すかというのが、連載第2回のテーマでした。

 ふつうに読めば、「ジャック・ソーナ-ラーカー」あたりでしょうが、それでは原典のパロディであることがまったく伝わりません。この作品は文学性を論じるようなものではなく、全編を通してばかばかしいことば遊びや親父ギャグが満載の作品ですから、そのことを最初に宣言する意味でも、かなりの冒険をしてよいところでしょう。

 sauna は「サウナ」で、lurker は「隠れる人」。なぜこんな名前にしたのか、正確なところは定かではありませんが、「ソニエール」にやや音韻が近いことと、なんとなくいかがわしい、なんとなく裸を連想させる名前であることの2つは見落とせないところです。この作品は東京・大阪の朝日カルチャーセンターのクラスなどでも同時に扱っているので、みんなに訳してきたもらったところ、おもしろい処理として「ジャック・サウナニイール」と「ジャック・スッポンポン‐ダンマリエール」というものがありました。前者は「サウナにいる」という意味を表しつつ、音の響きが「ソニエール」に似ているという、なかなかうまい処理です。後者は少々悪乗りがすぎる気がしますし、ダンマリエールの意味がよくわからないのですが(本人の説明によると、物言わぬ死体だから、ということでしたが、少々苦しいか)、このぐらいのインパクトがあってもいいかもしれません。

 わたし自身は、まず「サウナデカクレール」というのを考えつきましたが、ちょっと長すぎて読みにくいこともあり、最終的には「サウナデネール」(サウナで寝る)を採用しています。

 以上が《週刊ST》連載の第2回に書いた話の要約であり、先日の大阪講演でも同じ話をしました。大阪講演には、翌日の翻訳講座の生徒もたくさん参加していたので、上記の名前よりもいいものをあすまでに考えてきてください、と言って講演を終わりにしました。

 翌日のクラスで集まった名前の例は以下のとおりです。どれが正解とか、どれがいちばんよいとかいうのはありませんが、関西人のパワーが炸裂して、なかなか壮観です。ご参考まで。

・ジャック・サウナニッヒ・ソンデール

・ジャック・サウナデヌーグ

・ジャック・サウナ・ニ・コモール

・ジャック・サイ‐ナエール

・ジャック・ノゾキミール

・ジャック・サウナデノボセール

・ジャック・エセ・ソニエール

・ジャック・サウナ=ヒソーム

・ジャック・サウナデビール

2012年9月28日 (金)

週刊ST新連載「『ダ・ヴィンチ・コッド』に挑戦!」について

 The Japan Times が発行している週刊英語学習紙《週刊ST》で、この週末から連載をはじめます。《週刊ST》では、去年「たった6語の人生模様 SIX WORDS を読み解く」というコラムを担当していましたが、半年余りのお休みののち、今回は紙面1面すべてをいただいて、翻訳そのものをテーマとした月2回の連載記事を書かせてもらうことになりました。

 新連載のタイトルは「実践英語翻訳塾 『ダ・ヴィンチ・コッド』に挑戦!」。扱う作品はこれです。

 言うまでもなく、これは『ダ・ヴィンチ・コード』のパロディ本です。作品としてはB級、いやC級の脱力系ユーモア満載のドタバタ劇で、翻訳書として単独で刊行するのはちょっと苦しいのですが、ことば遊びなどが非常に多く、語学や翻訳の勉強を楽しみながらつづけていくには最適の教材なので、これを叩き台にして翻訳についてのあれこれを思いつくままに書いていくことにしました。

 この作品については、以前シンジケートの「【原書レビュー】えっ、こんな作品が未訳なの!?」で三角和代さんが楽しい紹介文を書いてくださったので、その文章をぜひ読んでください。

 10月からの半年間は、朝日カルチャーセンターの「英米小説の翻訳」クラス(東京大阪)でもこの作品を扱います。受講生のみなさんは、クラスで扱った範囲を後日復習するにはちょうどよいので、この機会に定期購読することをお勧めします。

 《週刊ST》の定期購読はここで申しこめます(1か月1,100円)。書店や駅のスタンドなどで1号ごとに買うこともできます(1号290円、販売店検索はここ)。これは訳注などがついた中級の学習紙ですが、さまざまな連載記事が参考になることも多く、語学・翻訳の学習者だけでなく、仕事としている人にとっても、この値段では安すぎるほどの情報量があります。

 デジタル版も含めて、入手できるのは日曜あたりになるので(一部の地域ではやや遅れます)、「『ダ・ヴィンチ・コッド』に挑戦!」の記事が載るときには、それに合わせたタイミングで、記事に書ききれなかったこぼれ話などをこのブログに書いていく予定です。