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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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あれこれ

2017年4月 4日 (火)

『外国の本っておもしろい!』(仮題)出版プロジェクトへのご協力のお願い

あの「読書探偵作文コンクール」が本になる!

『外国の本っておもしろい!~子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック~(仮)』

子どもが書いた作文をもとにした、子どものための翻訳書ガイドを作りたい!!

 子供たちに翻訳書を読んでもらうきっかけを作ることを目的として、7年にわたってつづけてきた読書探偵作文コンクールをより多くの人たちに知ってもらうために、これまでのすぐれた作品を集めた文集を刊行することになりました。タイトル(仮題)は『外国の本っておもしろい!』。まずはこのページをご覧ください。

 本のおもな内容は以下のとおりです。

・これまでのコンクールで最優秀賞を受賞した作文の全文

わたしも含めた事務局の翻訳者たちが執筆した、ジャンルごとの海外児童書作品ガイド

・選考委員3人と事務局メンバーによる対談(コンクールの歴史や、特に印象に残った作品などについて)

・海外の児童書に登場する料理やお菓子についてのコラムなど

 全体にわたってナビゲーターをつとめるのは、ハンギョドン、バッドばつ丸、コラショなど、数々の人気キャラクターの生みの親である井上・ヒサト氏が手がけるキャラクター〈読書探偵ニャーロウ〉です。

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 この本はサウザンブックスからクラウドファンディングを利用した形で刊行される予定です。6月末の締め切りまでに、製作のための目標額(200万円)が集まらなければ、刊行はできません。未来の読者を育てていくための試みに、どうぞご支援をよろしくお願いいたします(クラウドファンディングでは、プロジェクトが成立しないかぎり課金はされません。投資した金額が無駄になることはないので、ご安心ください)。

 プロジェクトを支援するコースは、書籍1冊だけを予約購入するものから、オプションつきのものまで、さまざまな形があります。詳細についてはこのページをご覧ください。

 もちろん、どのような形の支援でもありがたいのですが、特にお薦めしたいコースは「80名限定! 書籍+出版イベントにご招待」(5,400円)と、「100名限定! 書籍+出版パーティーにご招待」(10,800円)です。どちらも書籍1冊がつき、そのほか、7月30日(日)に表参道で開催される刊行記念イベント(午後2時から)やパーティー(夕方から)にご招待いたします(両方を選ぶこともできます)。

 午後のイベントでは、いまのところ、以下の内容でおこなうことを検討しています。ゲストなど、詳細が決まりましたら、随時お知らせしていきます。

・歴代の受賞者を集めての授賞式、主催者の挨拶

・英語だけでなく、世界のいくつかの言語で書かれた児童書の朗読(原書と訳書の両方)と、各国のことばや文化の簡単な解説(大人と子供、両方が楽しめる内容のもの)

・海外児童文学に出てくるお菓子や料理などのプレゼント

 もちろん、ほかの形でのご支援も大歓迎です。

 読書探偵作文コンクールへのわたしの思いについては、著書『翻訳百景』や、去年のDOTPLACEの連載〈出版翻訳あれこれ、これから〉の第4回「翻訳書の読者を育てるために」にくわしく書いたので、そちらも見ていただけるとありがたいです。

 あらためて、『外国の本っておもしろい!~子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック~(仮)』プロジェクトへのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

2017年2月10日 (金)

『翻訳百景』刊行1周年+「なんのために学ぶのか」全文掲載

 著書の『翻訳百景』(角川新書)が刊行されて、きょうでちょうど1年になります。すでに購入してくださったみなさん、さまざまな形で紹介してくださったみなさんにあらためてお礼を申しあげます。

 刊行当時にもずいぶん紹介しましたが、これは文芸翻訳の仕事や翻訳書の愉しみについてさまざまな角度から書いた本です。翻訳書に興味がある人はもちろん、あまり読んだことのない人も楽しんでもらえると自負しています。読書メーターに集まった感想はここで読むことができます。

 この本は、もともとこのブログや各種雑誌などに書いた内容を再構成したものですが、長さの関係で載せきれなかった話もかなりあります(翻訳百景ミニイベントのこと、エラリー・クイーンの新訳のこと、six words のことなどなど)。それらを続編として刊行するのは現状ではちょっとむずかしいのですが、この本が継続してある程度売れていった場合、大幅に加筆した文庫版を出すことはおそらく可能です。そんな事情もあるので、引きつづきどうぞよろしくお願いします。

 何もかもをここで紹介するのはむずかしいので、もくじだけを掲載させてください。

第1章 翻訳の現場
 ・文芸翻訳の仕事
 ・すぐれた編集者とは
 ・翻訳書のタイトル
 ・翻訳の匙加減
  

第2章 『ダ・ヴィンチ・コード』『インフェルノ』翻訳秘話
 ・『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』
 ・『デセプション・ポイント』と『パズル・パレス』、映画二作ほか
 ・『ロスト・シンボル』と『インフェルノ』
 ・ドン・ブライン『ダ・ヴィンチ・コッド』翻訳秘話
 

第3章 翻訳者への道
 ・わたしの修業時代
 ・なんのために学ぶのか
 

第4章 翻訳書の愉しみ
 ・全国翻訳ミステリー読書会
 ・読書探偵作文コンクール
 ・「紙ばさみ」って何?
 ・『思い出のマーニー』翻訳秘話
 ・ことばの魔術師 翻訳家・東江一紀の世界

 このなかで、第3章の「なんのために学ぶのか」だけは、翻訳の仕事の話とは一見あまり関係がありませんが、自分がいま翻訳の仕事をしている原点とも言うべき考え方なので、あえて収録したしだいです。5ページ半程度のものですから、1周年を機に、ここに全文を掲載します。ちょうど受験シーズンでもあり、受験生やご家族の人たちへの励ましのことばとしても読んでもらえたら、とひそかに思っています。

―――――――――――― 

   なんのために学ぶのか  

 いつの間にか、本業であれ副業であれ、講師として過ごした期間が三十年を越えた。そのあいだに多少とも子育てにかかわってきたこともあり、教えることや学ぶことの意味について、自分なりに長く考えてきたつもりだ。わたし自身は、周囲が勉強しているのに怠けつづけた時期と、だれにも負けないくらい勉強した時期の両方を経験したが、そんな立場から、いま感じていることを少し書いてみよう。  

 将来のためにTOEICや英検などを受けたほうがいいのかどうかと、いまでもよく尋ねられる。TOEICであれ英検であれ、資格試験というのは終着点ではなく通過点であり、目的ではなく手段である。そのことを自覚していれば受ける意味があるし、自覚していなければなんの意味もない。月並みだが、それが自分の答だ。
 たとえば英検の場合、二級までは四択問題で六割ぐらいの正答率で合格する。六割ぎりぎりで合格したとき、それが「目的」ならうれしいだろうけれど、「手段」ならうれしいはずがない。二級は高校修了程度、三級は中学修了程度とされているが、四択問題でたったそれだけしか正答できないのに、修了程度の実力がついたと錯覚するのがいちばん困る。学校単位で受けるような場合には、生徒のためにも、無理に上の級を狙わせるのではなく、なるべく相応の級を受けるよう、周囲が指導すべきだと思う。
 わたし自身は、中学三年で英検の二級に合格したが、そのときの正答率はおそらく六割ぎりぎりで(当時は自分の得点を知らされなかった)、正直なところ、何が書いてあるか、ちんぷんかんぷんに近い状態だった。二次試験の面接でも、ひとつの問いでは何を尋ねられているかまったくわからず、すっかり黙してしまったので、落ちたとばかり思っていたら、合格の知らせが来た。もちろん、そのときはうれしくてたまらなかったが、実力不相応の大きな目標を達成できたせいで、それ以降は英語の勉強をやめてしまい、本格的に再開したのは大学受験の予備校にかよいはじめてからだった。あのとき、しっかり不合格をもらっていたら、もっと早い時期に本物の実力をつけていただろう。十代の苦い思い出のひとつだ。
 

 数年前、知り合いの男の子が中学受験をしたところ、第四志望までの学校がすべて不合格となり、ようやく第五志望の学校に合格した。落ち着いたころ、その子が母親にこう言ったという。「落ちてばかりでつらかった。でも、三年間、いろいろ勉強できて楽しかったよ。中学受験してよかった。お母さん、ありがとう」おそらくその子は、第一志望に合格する以上のものを手に入れたはずだ。
 わたしが最初にアルバイトで教えた中学受験専門の学習塾には、「中学受験の結果で最もよいのは〝努力して落ちること〟、二番目は〝努力して受かること〟、三番目は〝努力しないで落ちること〟、最も悪いのは〝努力しないで受かること〟」というモットーがあった。合格が最終目標であるはずなのに、落ちるほうがよいとは何事だと、いまの時代なら親たちから怒鳴りこまれそうな文言だ。しかし、翻訳の仕事をはじめる前の十年以上に及ぶ講師生活で、わたしが見てきたなかには、中学受験で力不足なのに合格したことがその後けっしてプラスに働かなかった例も、中学受験で不合格だったことがその後大きくプラスに働いた例も、数えきれないほどあった。
 もちろん、その四つの順位づけはただの建前や絵空事かもしれないし、現実はそんなに甘くないのかもしれない。合格したことでモチベーションがさらにあがることも多いし、再起のチャンスが二度と訪れない場合もある。それでも、重要なのは結果ではなく、それに向けての努力だという、ごく当然のことなのに忘れがちな事実を、ときどきでもいいから思い出したいから、こんなことを書いている。
 わたし自身は大学受験で二度失敗し、三度目に合格している。一度目は努力しないで落ち、二度目は努力して落ち、三度目は努力して受かった。四つのうち三つまでを経験したわけだが、残りのひとつ〝努力しないで受かること〟がなかったのは、これもまた大きな幸運だったと思っている。
  

「なんのために学ぶのか」という問いに対して、ひとことで答えることはむずかしい。禅問答まがいの言い方をすれば「おのれの愚かさを知るため」だと思うが、それではわけがわからないので、少し例をあげて説明しよう。
 たとえば、千語ぐらいの単語集を全部暗記するためにどのくらい時間がかかるかは個人差があるだろうが、確実に言えるのは、後半の五百語を覚えるのに要する時間は、前半の五百語に要する時間よりずっと少なく、おそらく半分程度ですむということだ。頭のなかにいくらかの蓄積ができると、類推したり比較したりして、効率のよい方法が自然に身につくから、覚えるペースは加速する。最初は忘れて覚えての繰り返しだが、つづけていくうちに要領がわかり、少しずつ楽になっていく。
 そして、一冊をしっかり記憶した経験は、別の単語集や別の科目の何かを覚えようというときにも確実に生きてくる。それは、どんな作業が必要か、どれほど面倒なものかをすでに体得しているからだ。そして、人間はいかに忘れやすい生き物であるか、いかに怠けやすい動物であるかを身をもって知っている。大げさに言えば、自分の愚かさを知っているからこそ、進歩へのスタートを切れるということだ。その一方で、すでにひとつの目標を達成しているから、最後までやりきる自信はあり、成功の喜びも知っている。
 入学試験であれ、資格試験であれ、試験以外の目標に向けてであれ、何かについて学び抜いた経験は、つぎに新しいことを学ぼうとするときにかならず財産になる。その財産は、試験の結果自体とは比較にならないほど大きなものだ。
 

 文芸翻訳の勉強についても、まったく同じことが言える。翻訳の作業では、通常では考えられないほどの深さで調べ物をする必要がある。長くつづければ、自分の知識などたかが知れていることを思い知らされるから、手を抜かずに調べるし、たやすくは結論に飛びつかない。そういう作業に本格的に取り組んだ経験は、文芸翻訳の仕事に就こうと就くまいと、その後の人生のさまざまな局面で確実に役立つはずだ。
 わたし自身は、翻訳の勉強をはじめてから二十年以上になるが、まだまだ知らないこと、わからないことは多く、むしろ増えている気さえする。だが、それこそがおそらく翻訳という仕事のいちばんの魅力であり、つづけていくための原動力なのだろう。
 そして、翻訳書を読む側、翻訳文化を受容する側にとっても、同じことが言えるはずだ。未知のものが無尽蔵にあり、果てしなく湧き出してくることは、翻訳書を読む際の大きな喜びにほかならない。われわれ翻訳者は、そのお手伝いができるよう、日々つとめているので、どうかその成果たる数々の翻訳書を末長く楽しんで、人生の糧としてもらいたい。

2016年12月 7日 (水)

過去の記事や連載へのリンク

 最近このブログをご覧になりはじめた人などのために、以前載せたダウンロード可能のファイルや、外部の連載記事へのリンクなどをまとめて紹介します。

 

◎ダウンロードページ 

文芸翻訳入門(翻訳初学者用の冊子) ※諸事情により、2017年1月末までの公開とさせていただきます。 

「ことばの魔術師 翻訳家・東江一紀の世界」冊子データ 

『英和翻訳基本辞典』インデックス 

数学基本用語集

 

◎連載記事など(外部リンク) 

・cakes「『ダ・ヴィンチ・コード』翻訳秘話」(KADOKAWAの郡司聡さんとの対談。登録制ですが、登録しなくても記事の8割以上が読めます。

【第1回】翻訳者と編集者、フリーメーソンに侵入?
【第2回】『ダ・ヴィンチ・コード』ムーブメントの真実
【第3回】よき翻訳、よき編集とは?
【第4回】翻訳書はこんなに面白い! 

・DOTPLACE「出版翻訳あれこれ、これから」(毎月15日更新、全10回の予定) 

第1回「翻訳小説のおもしろさを伝えるために」 
第2回「翻訳書が出るまで」 
第3回「翻訳出版の企画を立てるには」 
第4回「翻訳書の読者を育てるには」 
第5回「出版翻訳の印税や契約について」 
第6回「全国翻訳ミステリー読書会」
第7回「はじめての海外文学について」 

・リリーフ・システムズのインタビュー「読者とつながり、書店を巻き込む」 

【前編】 

【後編】 

トークイベント「ことばの魔術師 東江一紀の世界」 (12月11日の「はじめての海外スペシャル」のレポート記事と動画も、後日この「通訳・翻訳のトビラ」で公開されます)

BS日テレ 久米書店 「#108 越前敏弥『翻訳百景』」

2016年9月21日 (水)

サウザンブックスについて

 少し前にスタートしたサウザンブックスをご存じでしょうか。

 ひとことで言うと、クラウドファンディングによって翻訳書を出版する試みで、プロジェクトが成立した場合には、編集から制作、営業などを一手に引き受けてくれるというものです。賛同者が一定数集まらない場合には、プロジェクトが成立せず、そのときは賛同者には支払い義務が生じません。

 くわしくは「サービスの流れ」や「よくあるご質問」を見てください。実際にプロジェクトに参加すると、出資のしかたがいろいろあることがわかります(金額が何段階かに分かれ、それに応じて受けとるものもちがいます)。

 発足した当初は、わたしもしばらく様子を見ていたのですが、先日、担当の人たちから直接話を聞くことができ、なかなか面白い試みだと思いました。

 トップページには、現在進行中の企画3つと、今後の予告が並んでいます。現時点で、すでに成立した企画がひとつと、もう少しという企画がふたつあるようです。もう少しの一方は、翻訳百景のミニイベントや《BOOKMARK》の頒布などなどで今年何度もごいっしょしている三辺律子さんによるものです。内容についてはここを見てください。

 ふつうは数千部から1万部ぐらいの販売が見こめないと、翻訳書の出版は不可能なのですが、この方式だと1,000部程度が見こめると成立します(支援者の数と一致しないのがわかりにくいのですが、各プロジェクトのパーセントの部分を見てください)。メガヒットは望めないけれど、ある程度の固定読者が確実にいるような作品(たとえば、古くからマニアの熱狂的支持が強い作品など)で有効な企画だと思います。

 立ちあがったばかりの組織でもあり、わかりづらい部分もいくつかありますが、わたし自身も最近プロジェクトへの参加を決め、また、自分自身の企画を何か出せないかと検討しているところです。みなさんもよかったらサイトを見てください。

 サウザンブックスについては、DOTPLACEの連載「出版翻訳あれこれ、これから」でも近いうちに採りあげる予定です。 

2016年5月 9日 (月)

「久米書店」で放送された内容の補足

 5月8日のBS日テレ「久米書店」を見てくださった皆さん、ありがとうございました。番組サイト内での、『翻訳百景』の回のページはこちらです。
 久米宏さんも壇蜜さんも、驚くほどていねいに『翻訳百景』を読みこんできてくださいました(番組をご覧になったかたはお気づきになったでしょうが、それぞれの本に付箋がたくさんついていました)。自分としては、まだまだ言い足りないこともありましたが、ともあれ、これを機に翻訳書の読者や読書会参加者が少しでも増えてくれたらうれしいです。
 番組内で言及した内容に関するリンクなどをいくつか紹介します。特に、はじめてこのブログにいらっしゃったかたは、ぜひリンク先へ行ってみてください。
 

・全国翻訳ミステリー読書会について
 番組では越前が「主催」していると紹介されましたが、正確にはそうではなく、わたしは「後援」している組織のとりまとめ役のひとりです。主催しているのは全国各地にある読書会の世話人の皆さんです。
『翻訳百景』の第4章にも書いたとおり、
翻訳ミステリー大賞シンジケートが後援する翻訳ミステリー読書会が、現在全国に20か所以上でおこなわれています(マップ参照)。
 番組で紹介された多摩南読書会はそのひとつで、3月に開催された
第5回の様子が放送されました。突然押しかけたにもかかわらず、取材に応じてくださった皆さん、ありがとうございました。せっかく話をしてくださったのに、オンエアされなかった皆さん、ごめんなさい。
 読書会の告知は、だいたい開催の1か月ぐらい前に翻訳ミステリー大賞シンジケートのサイトでおこなわれるので、興味のあるかたは定期的にチェックしてください。過去の読書会の告知記事やレポートなどは
ここにまとまっています(読書会カレンダーはここ)。 

・読書探偵作文コンクールについて
 番組内で壇蜜さんが紹介してくださった読書探偵作文コンクールの公式サイトは
こちらです。詳細については『翻訳百景』の第4章をご覧ください(趣旨の説明だけでなく、入選作品2作も掲載しています)。今年度も7月ごろに募集を開始する予定です。 

・「ことばの魔術師 翻訳家・東江一紀の世界」について
 番組内でわたしが最後に話した東江一紀さんの追悼イベントや書店フェアについては、
この記事にまとめてあります。書店などで配布した冊子のデータをどなたでもダウンロードできます。これを機に、東江さんの訳書を読んでくれる人が増えることを祈っています。 

 ほかのイベントや講演、新刊案内等については、このブログの少し前の記事をご覧になっていただくとわかります。つぎの更新時にもくわしくお知らせします。

2016年3月 3日 (木)

「はじめての海外文学」ふたたび

 前回のレポートにも書いたとおり、2月25日の東京トークイベントの最後に『翻訳百景』についての感想メールを紹介しました。ちょうどイベントの前日に届いたもので、ご本人の了解をとって、みなさんの前で読みあげたしだいです(大阪・京都では時間がなくて読めませんでした)。きょうはそのメールの内容をご紹介します。 

 約1年前、「はじめての海外文学」という全国的な書店フェアがありました。これは、50人の選者が推薦した翻訳フィクション作品を、系列の異なる書店の海外文学担当の書店員さんたちが協力していっせいに売っていくという画期的な試みでした。どういう思いではじめられたフェアだったかについては、翻訳ミステリー大賞シンジケートのこの記事にくわしく書かれています。

 わたしも選者のひとりだったので、その縁でいくつもの書店を紹介してもらい、おかげで数か月後の「ことばの魔術師 翻訳家・東江一紀の世界」を系列のちがう5店舗(青山ブックセンター本店、往来堂書店、紀伊國屋グランフロント大阪店、ジュンク堂池袋店、丸善博多店)で開催できることになりました。このことは『翻訳百景』の最終節(200ページ)にも書いてあります。

 先日『翻訳百景』の感想メールをくださったのは、「はじめての海外文学」フェアの仕掛け人だった酒井七海さんからでした。その後、退職してご出産なさったのですが、本を愛する思いはいまも変わらず、お忙しいなかでもブログやツイッターなどでいろいろと発信していらっしゃいます。

 その酒井さんからのメールは以下のとおりです(ごく一部ですが、わかりにくい個所についての省略や改変があることをご了承ください)。

――――――――――

越前さま

お世話になっております。
本日『翻訳百景』読了いたしました!
これはもうお世辞ぬきですっごくすっごくすっごく面白い本でした!!

個人的には、越前さんが翻訳小説をもっともっと広い読者に読んでほしいという想いを持っていらっしゃるところが、僭越ながら自分の考えと本当に似ていたので、すごくうれしく、心強く感じてしまいました。

文芸翻訳というお仕事は今まで完全にベールに包まれていて、どんなことを具体的にやるのかよくわかっていない人がほとんどだと思いますが、これを読むとすごく興味がわいてくるし、翻訳ものが読んでみたくなってくるんですよね〜。

書店員時代、常々翻訳小説を売るには、もう少し舞台裏が一般に見えてこないかなと考えておりました。やっぱり翻訳者や編集者のお話を聞くとぐっと作品が身近に感じられて、自然に読みたくなってくるんですよね。それを一般的にもっと広く知らせることはできないかなぁと、、、。

この本を読んでもらえればそれができると感じました!

わたしこれを本当に店頭で売りたかった。自分が今その立場にないことをものすごく悔しく思います。面白いからなのはもちろん、そういった理由で、これはぜひとも翻訳小説の苦手な方に読んでほしいと思ったからです。ただ実際はタイトルからして(もちろん素晴らしいタイトルだと思いますし、内容にも齟齬はないと思いますが、だからこそ、、、)誰かが誘導しなければおそらくその層には届かないというところが、本当に無念でなりません。

自分が今出来ることがないかちょっと本当に必死で考えております。でも今の時点で自分が出来ることといえば拙い文章で自分の小さなブログで紹介させていただくことくらいなのですよねぇ〜。

実は今ブログのリニューアルを考えていて(更新もめったにできていないのに無謀ですが、、、)タイトルを単純に「はじめての海外文学」として的をビギナー向けにぎゅっと絞ってやろうと。内容はそんなに変わらないかもしれませんが、わかりやすくはしたいなと思っております。

その最初の本として『翻訳百景』を紹介させていただいてよいでしょうか?

本を実際に積むことはできませんが、ポップのみで展示することはブログでもできるのではないかと思っております。

そんな擬似本屋みたいなブログができたら、、、ってどこまで更新できるのかわかりませんが、よろしければまずはこちらの本についてご紹介させてください。

いつか翻訳ミステリー読書会にも参加してみたいなと思いました。きっとまたお会いできるのを楽しみにしております。

この本が読めてよかったです。本当にありがとうございました!

酒井七海
――――――――――

 大きな励みとなるメールをくださった酒井さん、こちらこそ、ありがとうございました。

 そして、文面にもあるとおり、酒井さんのブログがつい先日リニューアルされ、「はじめての海外文学」としてスタートしました。今後を楽しみにしています。いろいろお忙しいでしょうから、どうか無理せずにマイペースで海外文学の紹介をつづけていってください。みなさん、どうぞ応援をよろしくお願いします。

『翻訳百景』は、ある程度本は読むけれど翻訳書をあまり手にとらない人、なんとなく語学や海外文化に興味があるけれど本を読む機会が少ない人などにこそ読んでもらいたいと思っています。すでにお読みになって、趣旨に賛同してくださるかたは、まわりの人たちに薦めていただけるとありがたいです。 

2015年10月20日 (火)

伊藤和夫先生のこと(後編)

 先週の前編では、おもに英文の読み方や学習法のことを書きましたが、きょうはそれとはちょっとちがう話です。

 わたしが駿台にかよっていたのは1980年度と81年度で、そのときは伊藤先生の英文解釈の授業を受けていました。もう30年以上も前のことなので、記憶があいまいなことも多く、ここから先に書くことは数値などの細かい部分が正確ではないかもしれません。その点をご了承ください。 

 当時の駿台は1コマ50分授業で、1学期には各コマが11回ずつありました。最初に渡された英文解釈のテキストには、[1]から[11]までの大問として、長文とそれぞれ数題の設問が載っていました。たしか英文の短いほうから順に配列されていたと思います。生徒は1コマぶんを予習して授業に臨むのですが、わたしは(そして、おそらくほとんどの生徒は)第1回の授業の前に、最初だからそう進まないだろう、11コマで[11]までだからまさか[2]まではやるまいと思って、[1]だけを予習していきました。 

 授業がはじまり、最初の10分ほどは英文を読んで訳すうえの心構えなどの説明があり、そのあとで[1]の解説になりました。そして、終了の1、2分前、その解説が終わり、だれもがテキストとノートを閉じようとしたその瞬間、伊藤先生の声が響きました。 

「1番はこれで終わり。つぎ、2番!」 

 そしていきなり[2]の冒頭の一文の解説がはじまったのです。予習していなかったわたしは(そして、おそらく多くの生徒は)面食らい、次回は[2]だけではなく、念のため[3]の予習をしていきました。 

 2年目の最初の授業でも、伊藤先生はまったく同じように、最後の1分で唐突に[2]にはいりました。おそらく、すべて予定どおり、すべて計算ずくのことだったのでしょう。当時の自分は驚くばかりでしたが、しばらく経ってみると、そこからは、どんな状況でも1分でも無駄にするなという強いメッセージと、同じ英文を2週にわたってより深く予習させようというきびしくもあたたかい配慮を感じとることができました。 

 もうひとつ、もっと強烈に記憶に残っている出来事があります。 

 駿台は全クラスが座席指定制ですが、人気講師の授業になると「もぐり」の生徒が大挙して押しかけました。あいている席には早い者勝ちで別クラスの生徒がすわり、通路にもおおぜいが腰をおろしたものです。当然、席取りをめぐるトラブルもときどき起こりました。

 ある日、伊藤先生の授業がはじまった数分後、前のほうの空席にすわっていた「もぐり」の生徒を、休憩からもどったその席の正規の生徒がどかせようとしていました。眉をひそめてそれを見ていた伊藤先生は、もぐりではなく、正規のほうの生徒に向かって、「おい、きみが出ていけ!」と一喝したあと、こうおっしゃいました。

「予備校側は、たしかにきみたちの席を用意している。お金を払ったきみたちには、その席にすわる権利がある。でも、それは授業がはじまるまでだ。始業のベルが鳴った瞬間、その席に着いていない人間の権利は消滅するんだよ」

 伊藤先生から教わったのは、英語の読み方だけではありません。権利とは何か、ルールとは何か、時間厳守とは何かということも教わりました。 

 わたしはいま、たとえば朝日カルチャーのクラス生の自主提出課題は、締め切りを1秒でも過ぎたら受理しません。また、どんなに実力があっても、どんなにセンスがよくても、特に理由もなく授業に遅刻してくる人は締め切りも守れない可能性が高いので、翻訳の手伝いやリーディングなどは頼まないことにしています(正確に言うと、いつも締め切りぎりぎりに提出するのも好きではありません)。

 そんなふうにしているのは、もちろん自分が翻訳の仕事をはじめてからのあれこれの経験ゆえの判断ですが、原点にあるのは、10代の終わりに伊藤和夫先生に教わった経験だと思っています。

2015年10月16日 (金)

伊藤和夫先生のこと(前編)

日本人なら必ず誤訳する英文』のインタビューコーナー(p73、p74、p126)などで、駿台予備学校時代に2年間教わった伊藤和夫先生の話をしましたが、きょうから2回に分けてもう少しくわしく書きます。

日本人なら必ず誤訳する英文』では、「左から右へ読む」というごくあたりまえのことをしつこいくらい強調し、その当然のことをしないせいで誤読・誤訳する例をいくつも紹介しましたが、これは自分が駿台にかよっていたときに伊藤先生から何度も聞かされたことでもあります。無意識のうちの「予想→確認」や「予想→違和感→修正」のプロセスも、伊藤先生が口頭や板書で何度も説明なさったことでした。この本を読んでくださった同世代の人たちのブログなどでは、懐かしいとか聞き覚えがあるという書きこみが相次ぎ、こちらも少々恥ずかしかったものです。

 ところで、伊藤先生の授業を実際に聞いた人なら同意なさるでしょうが、けっして音読のうまい先生ではありませんでした。極端なほど平板な、抑揚も切れ目もない読み方をなさったのです。これは戦前世代だったということもあるかもしれませんが、わたしの印象では、構文を生徒に体得させるためには音によって先入観を与えてはいけないという強い意志と配慮があったと思います。

 もちろん、教師が流暢に英文を読みあげれば、聞いている生徒は心地よく、よい発音が身につきます。ただ、難解な英文の解読に関して言えば、教師が上手に読んでしまうと、それだけで大きなヒントを与えてしまうのです。

  In the examples I am thinking of the person continues to behave in what most people woud agree is a normal manner, but one so remote from his old self that he appears, to those who know him, to be someone else entirely.

 たとえば、『日本人なら必ず誤訳する英文・リベンジ編』(p123)で採りあげた上の英文のような場合、教師が「正しい」音読をした瞬間に構文がわかり、この英文のどこに引っかかりやすいのか、誤読の原因がなんなのかを究明できなくなるのです。

 わたし自身、予備校講師だった時代にはその点に特に気をつけ、ときには意図的に平板に読むように心がけていましたし、いまも翻訳の講座などで、たまにやるときがあります。そんなときは伊藤先生のことを思い出して懐かしくなります。

 そのほかでは、伊藤先生が最終回の授業で(わたしが聞いた2年とも)こんなことをおっしゃっていました。『日本人なら必ず誤訳する英文』からそのまま引用しますが――

「ほんとうの意味で大人の英語を読めるようになるには、積み重ねたときに君たちの身長と同じ高さになるぐらいの原書や英語雑誌を読まなければならない」

 このことばは、大学にはいってからも、自分が教える立場になってからも、翻訳の勉強をはじめてからもずっと自分のなかに残っていました。伊藤先生のこのことばは、その後の自分の目標となりましたが、完全に正しいわけではないかもしれません。自分がほんとうに読めているという手応えを感じるまでに、「身長程度」の英文を読む必要があったのは事実ですが、その何倍もの量を読みこなしたいまでも、まだまだわからないこと、調べなくてはいけないことはいくらでもあるのですから。

 ともあれ、自分の原点とも言うべきものを形作ってくれた伊藤先生のことばにはいまも感謝しています。しかし、伊藤先生から教わったのは英語の読み方や学習法だけではありません。実はもっと大きなこと、生き方そのものに関することを教わったのですが、それについては来週「後編」で書きます。

2015年2月 9日 (月)

「最後のひと葉」の感想とクイズ

 昨年末に刊行されたO・ヘンリーの短編集『賢者の贈り物・最後のひと葉』(角川つばさ文庫)の読者のかたが、こんな手紙をくださいました(ご本人とご家族のかたから掲載許可をいただいています)。 

 画像がやや見づらいと思いますが、クリックすると拡大されます。

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 ていねいに全作を読んでくださったばかりか、こんな形で感想を送ってもらえて、とてもうれしく思いました。さっそく、訳者チームのメンバーや編集者にも転送しました。 

 このかたは昨年の読書探偵作文コンクールにも応募してくださっています。読書探偵作文コンクールは、翻訳書を読んで感じたことを自由な形で表現することをめざしていて、通常の感想文だけでなく、詩や絵入りのもの、登場人物への手紙、物語のつづきなどなど、さまざまな形式のものを受けつけています。 趣旨については去年この記事にも書きました。

 たとえば、今回のお手紙のようなものも、そのまま応募してくださってかまいません。本を読んだ喜びが伝わってくるものであれば、どんな形でも大歓迎です。事務局一同、楽しみにお待ちしています。 

 ところで、左のページの下にあるクイズ、みなさんは正解できたでしょうか。虫眼鏡を持ってシャーロック・ホームズの恰好をした鳩は、まさしく読書探偵のパロディでしょうが、これがなかなかの難問で、訳者・編集者チームでも正解を出せたのはひとりだけでした(わたしではなく、武富博子さんです)。だれとは言いませんが、もとのPDF画像を200倍に拡大したのに正解できなかった人もいました。

 答はハリネズミの顔(特に5コマ目の真ん中のもの)【カーソルで反転させてください】です。まさかこんなところに隠れているとは、と、みんなびっくりしたものでした。

 今年の読書探偵作文コンクールにも、ぜひこういう楽しい作品を送ってください。

2014年7月22日 (火)

出版翻訳データベース

 坂本久恵(編集A)さんが運営なさっている出版翻訳データベースには、多くの出版翻訳者の訳書リストやインタビューが掲載されています。

 わたしの著訳書リストが更新されたので、よかったらご覧ください(ここ)。デビュー作『惜別の賦』から最新の『思い出のマーニー』まで、全作品の書誌情報が載っています。これは自分自身で全作品にコメントをつけている唯一のリストです。

 リストとしては、ほかにやまねこ翻訳クラブのものがあり(ここ)、こちらもわかりやすい形にまとまっています。Wikipediaはここ

 また、この機会に、出版翻訳データベースにあるほかのリストやインタビューもぜひお読みになってください。特に、先日亡くなった東江一紀さんのインタビュー(ここ)は、10年以上前のものですが、いま読むとさまざまなことを考えさせられます。わたし自身のインタビュー記事はここ

 東江さんについては、第1回翻訳ミステリー大賞受賞作『犬の力』の訳者だということもあり、翻訳ミステリー大賞シンジケートで追悼企画を準備しているところです。サイトの常連執筆者や全国読書会の関係者など、多数から寄稿していただく予定です。しばらくお待ちください。

より以前の記事一覧