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  • 越前敏弥
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2019年1月

2019年1月 8日 (火)

『おやすみの歌が消えて』刊行

 年初に集英社から『おやすみの歌が消えて』(リアノン・ネイヴィン著)が刊行されました。これは全世代にぜひ読んでもらいたい本です。

 小学校での無差別銃撃事件を体験し、兄を失った6歳の少年ザックを語り手とする物語です。事件後、ザックは恐怖やとまどいや怒りや苦悩を感じつつ、家族との葛藤の中で日々成長していきます。ひらがなが多めですが、大人向け一般書です。

 ママの悲しみは、とても大きな声でつたわってきたから、ドアのすきまから、まっすぐぼくに向かってくるみたいだった。でも、パパの悲しみも感じた。ママみたいに大声じゃなくて、すごくしずかだけど。(p241)

 死んだあと、だれもがその人のことをわすれていき、二度と会うことはない。アンディもそんなふうになってるみたいだった。お通夜のつぎの日のおそう式で、ぼくはそのことに気づいた。みんながアンディのことを話してたけど、ところどころしかおぼえてないようだった。(p158)

 帯コメントは、先日対談した宮下奈都さんからいただきました。宮下さんのお書きになった書評全文は、1月20日発売の《青春と読書》2月号で読むことができます。わたしも気づかなかったことを鮮やかに指摘してくれたすばらしい書評です。

 また、少し早めに読んだ全国の書店員さんたちからも、熱いコメントをたくさんいただいています。いくつか紹介します。

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・あぁ、ザック!なんてすばらしい子!! いま、もし目の前に彼がいたら、思い切り抱きしめてその柔らかな髪にキスをしたい。そして、こころからありがとうと言いたい。

 6 歳の少年に、私はものすごく大切なことを教えられました。家族が突然大きな悲しみに襲われたとき、その悲しみをどうやって乗り越えるか。そしてどうしたらもとの「家族」に戻れるのか。

 大切な人を理不尽な暴力で亡くした時、大人は多分その怒りや悲しみを誰かにぶつけることで自分の気持ちをおさめようとするでしょう。だけどそれが本当は何の解決にもならないということを、幼い子供の方が本能的にわかっているのかもしれない。

 この物語を読んで、私は母親の気持ちに痛いほどの共感を覚えました。その狂気のような怒り、自分を本当に必要としている幼いザックの手さえはねのけてしまうほどの混乱。そのおおもとにある、最後となった朝の自分への後悔。容疑者の両親を攻撃することで、自分を責め、その罪を認めることを回避しようとする無意識の本能。だけど、本当はその「罪」や「現実」に母親と父親こそが向き合うべきで、そのきっかけを一生懸命作ってくれたザックのけなげさに涙が止まりませんでした。彼が、秘密基地の中で向き合った現実。そして見つけた、道。彼の純粋な心とやさしさと勇気に圧倒されました。読みながら、最初は悲しみが、そして、最後には温かい愛がのどに詰まって苦しいほどでした。6 歳の少年が、世界を変えます。きっとこの物語は世界を変える。

 私はザックにはなれない。でも、彼が両親を救うためにたくさんの人が彼を支えていた。その支えにならなれる気がする。誰か、私を必要としてくれる人の役に立てるような、そんな人になりたい。

   ――愛知県・精文館書店中島新町店 久田かおりさん

・まるで自分がザックになったような気がした。ザックと共に泣き、〈ぼくのにんむ〉を共に考えた(私の中のザックより、ザックは頭の切れる子だったけど)。きっと彼らはまたおやすみの歌を歌える日まで、悲しみと戦い続けるのだろう……家族全員で。

   ――栃木県・うさぎや自治医大店 江頭杏奈さん

・世の中に悲しいお話は沢山あるけれど、こんなにも読む者を悲しませる小説はなかなかないんじゃないかというくらい、ひたすら泣かされました。自分が子供だった頃、初めて死という概念にふれたときの、恐怖、混乱、悲哀が何年かぶりによみがえってきて驚かされました。

 これほどの残酷な喪失に直面した時に、原因に対して怒りを感じ罰を与えたいと感じるのは人間としてどうしようもない当然のことだと思いますが、それを否定し許したいというたった 6 歳のこどもの願いに、ただただひたすら泣かされました。

   ――滋賀県・本のがんこ堂野洲店 原口結希子さん

・息遣いさえ聞こえてくる繊細な文体。揺れ動く感情の波も、抑えきれず爆発する悲しみや怒りも、驚くべき精度で描き出されている。大人たちが掛け違えたボタンを、真っ直ぐな心で見つめ正していく。わずか 6 歳の少年の目を通して描かれる、世界を生き抜くための「幸せのひけつ」。

   ――兵庫県・喜久屋書店北神戸店 松本光平さん

・ザックを守らないと。そう思わずにはいられず、私は作中のザックの手をずっと握りしめていました。しかし読み進むたびにザックに降りかかる不幸や悲しみで胸が苦しくなり、読むのをやめたい、ザックの手を離してしまいそうになりました。でもザックが『最高のにんむ』をやり遂げ、もう一度家族が一つに戻った姿を見せてくれた時に、私の心も強くなっていることに気づきました。ありがとうザック‼︎

 今年度読んだ翻訳作品の中で間違いなく1番の傑作でした !!

   ――千葉県・喜久屋書店千葉ニュータウン店 松本大さん

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 担当編集者による紹介文はこちら

 ぜひご一読ください。

2019年1月 1日 (火)

2019年の予定など

 今年もどうぞよろしくお願いします。2019年の著訳書刊行やイベントなどの予定を簡単に書きます。

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 まず、1月4日ごろに集英社から『おやすみの歌が消えて』(リアノン・ネイヴィン著)が刊行されます。小学校での無差別銃撃事件を体験し、兄を失った6歳の少年を語り手とする物語です。事件後、少年は恐怖やとまどいや怒りや苦悩を感じつつ、家族との葛藤のなかで日々成長していきます。
 少年が語り手であることと、大人向きの一般小説(ミステリーではありません)であることを考え合わせ、原則として小学校3年までの漢字と低学年レベルの語彙だけを使って訳しました。
 全世代に自信を持ってお勧めできる作品です。この本については後日あらためて書きます。

 2月には三省堂から『世界史大図鑑』が出る予定です。一昨年の『世界文学大図鑑』の姉妹編で、形式やページ数も同じです。世界史のおさらいができるのはもちろん、西洋人から見た世界史がわれわれの教わった世界史とどんなふうに異なっているかを比べてみるのもいいと思います。

 そのほか、ミステリーの文庫化や、英語表現にまつわる著書も準備中です。

 12月に刊行された『大統領失踪』(ビル・クリントン&ジェイムズ・パタースン著、早川書房)と『ストーリー』(ロバート・マッキー著、フィルムアート社)も引きつづきよろしくお願いします。

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 朝日カルチャーセンター(新宿・横浜・中之島)の文芸翻訳講座は、引きつづき1月期のクラスの受付をおこなっています。要予習の「英米小説の翻訳」、予習不要の一般講演のほか、去年好評だった公開対談「だから翻訳は面白い」のシリーズ化が決まっています。お相手は、去年の第1回が代田亜香子さんと、2月2日の第2回が早川書房の編集者・山口晶さん。なるべく1期(3か月)に1度はやりたいと思っています。
 朝日カルチャーの1月期講座については、こちらを見てください。

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 3月に2回完結の公開勉強会の開催を予定しています。これについては、後日くわしく書きます。対象は、これまで越前の翻訳クラスをまったく受けたことのない人、クラス歴が1年以内の人です。

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 全国翻訳ミステリー読書会めぐり、「はじめての海外文学」や「読書探偵作文コンクール」(小学生中高生)などの各種イベントも、同様におこなっていくので、機会があればぜひご参加ください。
「翻訳百景ミニイベント」については、朝日カルチャーの「だから翻訳は面白い」で似たことをやっていくつもりですが、その枠にはいりきらないときにミニイベントを自主的に開催することがあるかもしれません。

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