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2017年6月27日 (火)

パロディ本『ダ・ヴィンチ・コッド』から名訳・珍訳集(2)

 2週間ほど前に「パロディ本『ダ・ヴィンチ・コッド』から名訳・珍訳集(1)」という記事を書き、ことば遊びをどう訳すかを、朝日カルチャーの受講生の例を紹介しつつ説明しました。


 今回はそのつづきです。原文は以下のとおり。前回と同じく、ロバート・ドングランとソフィー・ヌードミテネーのやりとりです。

"A scape-goat." said Robert, miserably.
"But, with my help, perhaps we can make you not scape-goat but an escape-goat." She smiled. Then she said: "I have made a joke. Do you see?"

 ドングランが、自分が scape-goat にされると言って落胆するのに対し、ソフィーはここから脱出させてあげるという意味をこめて escape-goat にしてあげるというだじゃれを言います。その後、ひと呼吸置いて「ジョークを言ったのよ。わからない?」とわざわざ言うわけですから、ここは鮮やかに決まるものよりも、むしろ情けないほどばかばかしい親父ギャグレベルのだじゃれにするほうが成功します。しょげ返るドングランとの対比を際立たせて、笑いを誘いたいところです。

 半数ぐらいの人は、ここを「スケープゴート」「エスケープゴート」と訳していました。スケープゴートもエスケープも、いまでは多くの日本人が知っていることばですから、これは安全な処理だと言えるでしょう。ただし、まったくおもしろくもくだらなくもありません。そういう意味では、どうしてもほかを思いつかないときの最後の手段としてはありうるものの、ベストからはほど遠い処理です。ジョークとして、はずしてもいいから、もっと冒険してもらいたい。

 scapegoat を日本語にするとしたら、おもに「生け贄」「身代わり」のふたつが考えられます(「濡れ衣」でもいいかもしれません)。あとの escape-goat と合わせてうまくだじゃれが決まるなら、どれでもいいと思います。ただ、ドングランのおびえた感じ、しょげた感じを強調したければ、「生け贄」のほうがやや恐ろしさにまさるので、できればそちらを選びたいところです。

 以下に、受講生の訳として、かなり工夫していると言えるレベルのものを4つ紹介します。

・「身代わりじゃなくて、身軽になれるかも」
・「身代わりから、身かわしできるかも」
・「身代わりじゃなくて、ただの気味がわりい人、にしてあげられる」
・「ズラ借りてズラカリましょう」

 上のふたつは、意味の上では問題なく処理できていますが、だじゃれとしてのくだらなさが足りません。

 下のふたつは、逆にくだらなさではトップクラスですが、escapeの意味合いが消えています。

 わたしの訳は以下のとおりで、これと同じ処理をした人が数人いました。

「生け贄か」ドングランは打ちひしがれて言った。
「でもわたしが手伝えば、たぶんあなたを生け贄じゃなくて生け逃げ【ヽヽ】にしてあげられる」ソフィーは微笑んだ。そして言った。「冗談を言ったのよ。わからない?」

 このほか、わたしの訳文よりよくできている(つまり、意味が通って、よりくだらない)と感じたのは以下の例です。

「生け贄じゃなくて、イケイケにしてあげる」
「あなたは生け贄にならずにすんで、行けイエーイと逃れられる」

 あと1回か2回、The Da Vinci Cod から選んで受講生の訳を紹介します。次回はこの個所です。

 Directly opposite Saune-Lurker's office door was a mural, or 'wall painting', of Leonardo's celebrated Last Supper, filling the space from door to ceiling.

 朝日カルチャーセンターの「英米小説の翻訳」クラスでは、つぎの7月期もこの作品を扱います。

新宿火曜午前(7月4日&8月1日&9月5日、10時から11時30分)
新宿土曜午後(7月1日&8月5日&9月2日、12時30分から14時)
横浜(7月8日&8月26日&9月9日、15時15分から16時45分)
中之島(7月22日、13時から16時)

 毎回原書1ページの予習教材があるので、特に新宿教室の人はなるべく早く申しこんでください。

 ほかの講座・講演についてはこの記事をご覧ください。
 

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