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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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2016年2月 5日 (金)

翻訳書の持ちこみ企画について(その2)

 少し前に翻訳学校フェロー・アカデミーのこのインタビュー記事で、先日の第15回ミニイベントでお招きした金原瑞人さんが翻訳企画の持ちこみについてかなりくわしく話していらっしゃいました。大変役立つ記事なので、ここでも紹介します。 

 特に、「持ち込みはなかなか成功しないという先入観があるのですが」という問いかけに対して、「そんなことはないですよ。それは持ち込み方が悪いからでしょう。もしくは持ち込む相手が悪いんだと思います」とお答えになっているところは、わたしにとっても衝撃的でした。わたし自身も、持ちこみに成功したことは、古典新訳も含めて数回しかないからです。 

 しかし、このインタビューを読み進めていくにつれ、うなずけることばかりだと感じました。ひとことで言えば、海外作品の紹介者として、編集者や出版社のアドバイザーになれるぐらいの知識や鑑識眼を持つべきだということでしょう。点や線で攻めるのではなく、面で攻めていくだけの気概が必要だと言ってもいいかもしれません。金原さんの域にまでいきなり達するのはむずかしいにせよ、翻訳学習者がこれからどんな勉強をしていけばよいかの指針は、このインタビューではっきり示されていると思います。 

 3年近く前になりますが、わたしもこの記事で企画持ちこみについて書きました(だから今回のタイトルに「その2」と入れています)。基本的な内容は金原さんのインタビューと同じ方向のもので、成功した例(わたし自身の話ではありませんが)をひとつ採りあげているので、合わせて参考にしてください。 

  「その1」にあたる記事の最後に「企画持ちこみというのは、仮に成功しなくても別の効用があって、そちらのほうがむしろ大きいと考えていますが、それについては後日また」と書いたままにしてあるので、少しだけですが、つづきを書いてみます。 

 もちろん、持ちこみ企画がそのまま採用されればそれに越したことはないのですが、わたしの場合は、持ちこみをつづけたりどんな作品が好きかを言いつづけたりすることによって、仮にその企画自体が成功しなかったにしても、自分の好みの作品を出版社からまかされる可能性が高まる、というつもりできょうまでやってきました。 

 たとえば、駆け出しの当時は多くの編集者を知っているわけではなかったので、金原さんのインタビューにある「この編集者なら出してくれるかな、という当たりをつける」ということはむずかしかったのですが、それでも何人かには企画を持ちこんだり何度も好みを伝えたりしています。そのころ推していた作品は結局刊行されませんでしたが、直後に類似の作品の仕事がまわってきたり、編集者が他社へ移籍したときに自分の好みの作品をまわしてくれたりという例はいくつもあり、そうやって何年かかけて仕事の幅をひろげてきました。 

 その後は時間に追われることが多く、特にエラリー・クイーンの新訳を担当していた時期は、新しい作家・作品を追いかける暇があまりなかったのですが、去年の夏に一段落して、少しずつ新企画を出版社に持ちこんだりしています。それらはまだ実を結んでいませんが、今回もやはり、その過程のなかで類書の翻訳を依頼されています。第8回ミニイベントの際の田内志文さんのメッセージにも通じるものがありますが、みずから動くことで、翻訳出版全体を盛りあげることができ、そのうえ、自分自身にも仕事がまわってきやすくなるというのはまちがいありません。 

 翻訳技術を磨くことはもちろん大事で、その土台をおろそかにはできないのですが(金原さんのインタビューも後半はそういう趣旨になっています)、受け身の勉強をするだけでただ待っているだけの人のところに仕事が来ることがきわめてむずかしい時代になっていることはたしかです。 

 ところで、その金原瑞人さんと三辺律子さんのトークイベントをもう一度開催することになりました。今回はさらにもうひとりゲストをお招きして、わたしは司会役にまわる予定です。テーマは海外のファンタジー作品について。詳細は来月にでもお知らせしますが、興味のある人は5月21日(土)の夜をあけておいてください。

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