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2014年12月 5日 (金)

新訳『災厄の町』について

 エラリイ・クイーンのライツヴィル・シリーズ第1弾『災厄の町』の新訳が早川ミステリ文庫から刊行されました(角川の国名シリーズは「エラリー」ですが、早川は「エラリイ」です)。

『災厄の町』はクイーンの後期の代表作で、クイーン自身が最高傑作と評したこともある作品です。わたしも、海外ミステリーのオールタイムベストを選ぶとき、かならずこの作品を上位に入れます。レーン4部作と並ぶ大好きな作品の新訳に携われたことを、大変光栄に思っています。機会を与えてくださった早川書房のみなさん、ありがとうございます。

 架空の町ライツヴィルを舞台としたこの作品でのエラリーは、国名シリーズで見せた鋭い推理の切れ味を保ちながらも、人間味豊かな余裕ある観察者へと大きく成長を遂げています。推理がすべて披露されたあとの結末の味わい深さはなんとも忘れがたく、これまで自分でも何度も読み返してきた作品です。

 巻末には、角川文庫の国名シリーズ全作品でも書いてくださっているクイーン研究の第一人者・飯城勇三氏の詳細な解説がついています。さらに、その前に訳者あとがきもありますが、これは、今回の新訳で旧訳から重大な変更があったため、それについて説明するためです。

 実は、問題になるのはたった1語の訳語にすぎないのですが、事件の真相の核心部分に関するものなので、具体的にここに書くことはできません。これはトリックにこそ影響しませんが、旧訳ですでにお読みになったかたや、日本での映画化作品〈配達されない三通の手紙〉をご覧になったかたは、今回の新訳によって、犯行の動機や事件の全体像が微妙に変わって感じられると思います。ぜひ、あらためてご一読ください。

 なぜ今回の変更をおこなったかについては、訳者あとがきの中ほどの見開き2ページ(500ページ、501ページ)に、完全にネタを割った形で詳述しました。作品を未読のかたはぜったいにその2ページを先に読まないでください。なお、旧訳で既読のかたも、そちらを見ずにまず本編をお読みになることをお薦めします。

 そのほか、今回の新訳ではじめて中扉(9ページ)にはいった副題にも注目してください。これを角川文庫版国名シリーズの中扉にある副題と比べると、クイーンという作家が初期からどう変わったか、何をめざすようになったかがよくわかります。これらの副題は、原著の初版についていたものの、過去の訳書では掲載されていませんでした。詳細は飯城勇三氏の解説に載っているので、そちらもご覧ください。

 【12月7日追記】今回は旧訳と比べて100ページ程度長くなりました。字組みが変わったのも一因ですが、それより大きいのは、旧訳で使われた原書が、改行を減らすなどの短縮処理が施されたものだったからです。今回の新訳が初刊どおりの形です。この点に関しても、飯城勇三氏の解説に説明があります。【追記ここまで】

 早川書房からは、このあと、来年の夏ごろに『九尾の猫』の新訳が出る予定です。

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