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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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2014年4月11日 (金)

訳文作りのメモ

 訳文を作る際に何を心がけるべきかについては、『日本人なら必ず悪訳する英文』や近日公開の〈文芸翻訳入門〉にこれまであれこれ書いてきましたが、かつて翻訳学校の上級クラスで教えていたころには、もう少しくわしいメモを配付していました。自分の好みにすぎないことや、あまりにも細かい具体例も多く書いてあるため、すべての内容を公開することはできませんが、いくつかの事項はあえて秘匿する必要もないので、きょうは7つだけ紹介します。

 ここに列記したことは、私見ではあるものの、小説の翻訳をするにあたっての重要なルールだと信じています。

―――――――

・「?」「!」は、どうしても必要なとき以外はつけない。

・「~くる」「~いく」「~もらう」「~くれる」「~あげる」「~しまう」「~こむ」などは、主語の省略、人物関係の明確化、事実の強調などのために有効だが、むやみに使うと文章が間延びして安っぽくなる。不要な場合はいっさい使わない、ぐらいの姿勢がちょうどいい。

・「彼」「彼女」などを使わないために人名に置き換えるのはひとつの手だが、そればかりやっていても、カタカナだらけでもっと読みづらくなるだけで、本質的な解決にならない。「彼」「彼女」の最大の問題は、主格や目的格を不可欠とする英語の文体をそのまま残した生硬さを感じさせてしまうことであり、日本語本来の文体を心がけて訳せば、わざわざ人名に置き換えなくても、ほとんどの「彼」「彼女」はほうっておいても自然に消えるはず。

・「~に行く」と「~へ行く」について、本来正しいのは「~へ行く」。もちろん現代語では「~に行く」を使う場面があってもいいが、「へ」は未来のこと、「に」は過去のことを語る場合になじみやすい。また、ただでさえ、「に」はいろいろな意味や用法で使われるので、連発にはつねに気づかうべき(「三時にいっしょにロンドンに行く」など)。「向かう」「渡る」「もどる」「帰る」などの動詞についても同様。

・擬声語、擬態語などは、原文が明らかにそういうニュアンスの場合やどうしても避けられない場合以外は使わないこと。使いすぎると安っぽく幼稚な文になる。

・原文が比喩ではないのに訳文が比喩というのは、原則として避けるべき(日本語の言いまわしが、ひとつの不可分な慣用句になっている場合を除く)。

・訳注は、もちろん、つけないのがベスト。ただし、訳文に説明を織りこむことで、かえって不自然になるとき(特に台詞のなかの場合)は、訳注を入れる以上に見苦しく読みづらく興醒め。それをよく考えること。

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