プロフィール

  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
無料ブログはココログ

« 2013年12月 | トップページ | 2014年2月 »

2014年1月

2014年1月24日 (金)

第8回ミニイベントの報告

 昨夜おこなわれた第8回翻訳百景ミニイベント、これまでにも増しての大盛況でした。お越しくださったみなさん、ありがとうございました。

 田内志文さんをお迎えし、『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の例を中心にして、翻訳企画の持ちこみの話をしていただきましたが、田内さんのお話は、どうやったら翻訳出版界全体を盛りあげていけるかを見据えてのものだったので、非常に興味深く耳を傾けていた人が多かったようです。シノプシスを書いていくうえでの注意事項や、出版社との付き合い方、翻訳者や学習者としての心構えなど、ご自身の体験談を交えての具体的なアドバイスが満載の講演でした。随所にユーモアを交え、時に参加者を鼓舞するようなお話だったので、それに誘発されるように、つぎつぎと質問の手があがりました。

 また、事前に告知はしませんでしたが、『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』の担当編集者である東京創元社の佐々木日向子さんもトークや質疑応答に加わってくださり、翻訳者と編集者の双方の立場からの意見やアドバイスが聞けたので、話が立体的になって参考になったとおっしゃっていた参加者のかたがおおぜいいらっしゃいました。このように、翻訳者と編集者の双方をお呼びするという形でのイベントを、今後もまた企画したいと考えています。

 開始前と休憩中に、田内さんのサイン入り訳書の販売をおこなったところ、何十冊も売れるといううれしい事態になったのも印象的で、この種のイベントの未来の可能性を示唆するものだったと思います。あらためて、告知記事にあった田内さんからのメッセージを読んでみてください。わたし自身もこの問題について今後も考え、なんらかの形で発信していくつもりです。貴重なヒントを与えてくれた田内さんと佐々木さん、そして参加者のみなさんに感謝しています。

 次回の翻訳百景ミニイベントの日程・内容はまだ決まっていませんが、夏までのどこかで開催したいと考えています。確定したらまたお知らせします。

 

2014年1月17日 (金)

INFORMATION 2014-01-17

 第8回翻訳百景ミニイベントの開催日が来週(1月23日)に迫ってきました。田内志文さんをお招きして、翻訳企画の持ちこみなどについて話していただきます。興味のあるかたは田内さんご自身からのメッセージをお読みのうえお申しこみください。

―――――

 朝日カルチャーセンター(東京・大阪)の翻訳講座1月期は、大阪は1月25日のみ、東京は2月1日、3月1日、3月29日に開講されます。くわしくはこの記事を参照してください。「文芸翻訳のツボ」を現在の形でおこなうのは今期が最後で、4月期からは、東京・大阪とも、「文芸翻訳のツボ」は1回きり(1時間半)のオリエンテーションクラス、「英米小説の翻訳」は1期あたり計4時間半の講座になります。

【1月17日午後9時追記】

 新宿教室の「文芸翻訳のツボ」が満席となりました。キャンセル待ちの形でお受けしています。「英米小説の翻訳」や中之島教室の各講座は引きつづきお申しこみを受けつけています。

 大阪での一般向け講演(大阪翻訳百景)は、次回は1月24日(金)の夜に開催します。こちらからお申しこみください翌日の講座を受講する人は、なるべくこちらにも参加してください。

―――――

 先週刊行された『たのしい編集』(和田文夫・大西美穂著、ガイア・オペレーションズ発行、英治出版発売)に、20ページ程度のインタビューが掲載されています。書籍の編集作業の全般について、編集者歴35年に及ぶ和田さんがわかりやすく解説した本で、単なるマニュアルではなく、本質論が多く記されているので、編集者志望者はもちろん、翻訳者や学習者にとってもいろいろと学べる本です。インタビューでは、これまでにお世話になった何人もの編集者の実例をあげながら、翻訳者の立場からの意見や要望などを述べさせてもらいました。

Photo

―――――

 ダン・ブラウンの『インフェルノ』を下敷きにした室内型謎解きイベント「インフェルノ・コード」が、愛知県の明治村で開催されます。追加公演がおこなわれることも決まったようです。このあと、ほかの地方での開催も検討されていると聞いています。

2014年1月10日 (金)

「大機構」について

 ダン・ブラウンの『インフェルノ』が刊行されて1か月半近くが経ち、すでにお読みになったかたも多いと思うので、きょうは『インフェルノ』の訳語についての話を少々。

 これまで、ダン・ブラウンの作品では、組織名や役職名をどう訳すかで迷ったことが何度かありました。定訳がある場合は問題ありませんが、2種類ある場合や、まったくない場合も多く、そのつど、味わいや重み、わかりやすさや読者層など、諸要素を考慮しながら、いくつかの訳語を秤にかけてきたものです。

 過去にいちばん迷ったのは、『ダ・ヴィンチ・コード』の「導師」だったと思います。これは事件の黒幕とも呼ぶべき重要人物ですが、原語は Teacher でした。当時の翻訳のクラスでは、ほとんどの生徒が「教師」か「先生」と訳してきましたが、この語は地の文と呼びかけの両方で何度も登場することもあり、もっと強烈な印象を残す訳語を選ぶべきです。Teacher が大文字ではじまっていることを生かさなくてはいけない、という言い方もできるでしょう。こういうときは、単語レベルで考えるのではなく、作品全体のなかでどんな位置にあり、どんな役割を持った人物であるかまでを判断材料にする必要があります。最終的に「導師」という訳語に決めるまでには、たしか1か月以上かかりました。

 それに劣らず、いや、たぶんそれ以上に迷ったのが、今回の『インフェルノ』に登場する謎の組織「大機構」でした。いちおう本文の最初に、名称は変えてあるが実在すると書いてはあるものの、これは架空の組織と考えて差し支えがありません。

 この「大機構」ですが、原語は the Consortium です。辞書を引くと、組合、協会、共同体、合弁企業などの訳語が出ています。カタカナの「コンソーシアム」というのは、まだおそらくほとんどの人にとってあまりなじみのないことばでしょうが、大学や研究団体などの連合体などの意味に使われるケースが多いようです。最近だと、電子書籍コンソーシアムという名前を何度か耳にしました。

 今回も訳出期間中に翻訳のクラスでこの作品を教材にしたところ、約半数の生徒が辞書どおりに「協会」「共同体」「連合」などと訳し、残りの半数は「コンソーシアム」でした。実を言うと、わたし自身もその時期はどの訳語で行くべきか判断しかねていて、生徒の訳のなかでよさそうなものを採用しようと考えていました。

 しかし、「協会」「共同体」「連合」では、あまりに抽象的であり、また、「教師」「先生」と同じで読者の印象に残りません。また、「コンソーシアム」は、得体が知れないと言えばそうですが、洗練された感じやアカデミックな響きがあり、この組織の持つ妙ないかがわしさに合っていません。

 未読の人にはわかりづらいかもしれませんが、この the Consortium というのは、なんだかわけがわからないものの、大規模な陰謀を請け負う秘密結社めいた組織です。そして、後半になると、見かけとはまったくちがう意外な(そしてあまりにも異様な)実態が明らかになるわけですが、訳語はその見かけと実態の両方を反映していなくてはなりません。そのためには、「公」なのか「私」なのか見当がつかない、どっちつかずで仰々しい響きが必要です。

 わたし自身は、この『インフェルノ』という作品には、スピード感と蘊蓄のバランスのよいスリラーとしてだけでなく、いわゆる「バカミス」としてのおもしろさがあると考えています。そのあたりについては、「インフェルノへの道(その1)」の後半の記述や、「書評七福神の十一月度ベスト発表!」の千街晶之さんの文章を参考になさってください。そして、この作品の魅力を最大限に伝えるためには、the Consortium に極端なまでに大仰な訳語を与える必要があると思いました。冗談ではなく、「死ね死ね団」などという訳語も一瞬脳裏をよぎったほどです。

 最終的には、ひとりの生徒が「機構」という訳語を選んできたのを手がかりとして、それに「大」をつけました。「機構」は字画数が多く、「協会」などに比べてずっと事々しい響きがあるので、かなりよいと感じましたが、それではこの作品の「陰の主役」の名としては物足りなかったので、「大」で駄目押しの一撃を加えたしだいです。

『インフェルノ』はすでに映画化が決まっていて、2015年12月に公開される予定です。「大機構」がどんなふうに描かれるのか、いまから楽しみです。

【2016年10月追記】

 その後、製作が少し遅れ、映画〈インフェルノ〉は2016年10月28日に公開されることになりました。公式サイトはここ。〈ダ・ヴィンチ・コード〉〈天使と悪魔〉につづいて、今回も翻訳のお手伝いをさせていただきましたが、映画作品は原作の換骨奪胎のしかたが徐々に進化している気がします。ぜひお楽しみください。

 この記事に興味をお持ちになったかたは、わたしの著書『翻訳百景』に「『ダ・ヴィンチ・コード』『インフェルノ』翻訳秘話」という50ページ余りの章があって、そこにさらにくわしく書いたので、ぜひご一読ください。

2014年1月 2日 (木)

2014年の予定など

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 2014年の翻訳の仕事やイベントなどの予定を簡単に書きます。

―――――

 訳書では、今年の後半から、エラリー・クイーンの国名シリーズの6作目以降が順次刊行される予定です。『アメリカ銃の秘密』『シャム双生児の秘密』までは確実で、『チャイナ橙の秘密』も今年じゅうに出るかもしれません(タイトルはすべて仮題)。

 さらに、同じエラリー・クイーンの『災厄の町』の新訳も、今年の後半に早川書房から出ることが決まっています。

 そのほかでは、C・J・サンソムのチューダー王朝弁護士シャードレイク・シリーズの第3弾 Sovereign の刊行も今年のうちになる予定です。

 2015年の前半ぐらいまで、翻訳の仕事はエラリー・クイーンの新訳が大半を占める状態になります。

 著書では、『日本人なら必ず誤訳する英文・復習編』(仮題)を今年じゅうにお届けできると思います。

 また、それとは別に、軽めの内容のエッセイ集を出すことも内定していますが、こちらはおそらく来年になるでしょう。

―――――

 3月末か4月はじめに、文芸翻訳の初学者用の解説冊子をこのブログにアップするつもりです。PDFファイルの形で、どなたでも無料でダウンロードできるようにします。

―――――

 今年も翻訳百景のミニイベントを何回か開催します。すでにこの記事で告知したとおり、今年の最初(第8回、1月23日)は、ゲストに田内志文さんをお迎えして、翻訳企画の持ちこみなどについて話していただく予定です。このテーマに興味をお持ちのかたが多いようで、早くも70名以上のかたからお申しこみをいただいています。

―――――

 朝日カルチャーセンター(東京・大阪)の翻訳講座1月期については、この記事を参照してください。「文芸翻訳のツボ」を現在の形でおこなうのは今期が最後で、4月期からは、東京・大阪とも、「文芸翻訳のツボ」は1回きり(1時間半)のオリエンテーションクラス、「英米小説の翻訳」は1期あたり計4時間半の講座になります。

 大阪での一般向け講演(大阪翻訳百景)は、引きつづき半年に1度ぐらいのペースでおこなっていきます。次回は1月24日(金)の夜に開催します。こちらからお申しこみください。

―――――

 翻訳ミステリー大賞シンジケートの後援する各地方の読書会は、現在全国16か所でおこなわれています。今年も、できるだけ多くの読書会をまわりたいと思っています。自分の住む地域でも新たに開催したいと考えていらっしゃるかたは、シンジケートと翻訳百景、どちらのアドレスでもかまわないのでご一報ください。

« 2013年12月 | トップページ | 2014年2月 »