『神曲』入門書とダンヌンツィオ展
翻訳ミステリー大賞シンジケートの連載「『インフェルノ』への道」は、すでに「その1」「その2」が掲載され、25日(月)の「その3」で完結します。また、KADOKAWAの『インフェルノ』公式サイトには、プロモーション動画やインタビュー映像がアップされています。
28日(木)の『インフェルノ』刊行に向けて、関連書やダンテの入門書などがいくつか刊行されますが、きょうはそのうちの1冊を紹介します。今週末には書店に並ぶと思います。
この『謎と暗号で読み解く ダンテ『神曲』 (角川oneテーマ21)』は、東京大学大学院総合文化研究科准教授の村松真理子さんによる『神曲』入門書です。著者はダンテも含めたイタリア文学の研究者で、ダンテの生い立ちや『神曲』の読みどころをとてもわかりやすくまとめてくれています。
『神曲』の入門書としては、阿刀田高さんの『やさしいダンテ<神曲> (角川文庫)』がすでにありますが、そちらが著書の解釈を交えつつ全体のあらすじを網羅していく構成であるのに対し、今回の村松さんの著書は、全体をざっと一覧しながらも、文学史・社会史のなかで重要ないくつかの部分に焦点を絞って論じているという印象を受けました。また、韻文としての『神曲』の魅力を、イタリア語を知らない一般読者にもわかりやすく紹介している個所がいくつもあり、理想的な入門書となっています。
『インフェルノ』の前後、どちらに読んでも、きっと多くを学べ、楽しめると思います。そして、これを機に14世紀の名作そのものをぜひ手にとってください。
この村松真理子さん、実は大学時代の同級生です。角川書店からこの本が出ることを知らされたときは、あまりの偶然に驚いたものです。先日、東大の駒場キャンパスへ行って、久しぶりにご本人に会ってきました。そのとき、ダンテや神曲にまつわる話もいろいろ聞いたのですが、特におもしろかったのは、ダン・ブラウンは『ダ・ヴィンチ・コード』のときにすでに『神曲』の影響を受けていたにちがいないというものでした(『謎と暗号で読み解くダンテ『神曲』』のあとがきにも、そういう記述があります)。自分にとってそれは大きな驚きでしたが、説明を聞いてなるほどと納得しました。このことについては、来週「『インフェルノ』への道」の「その3」にくわしく書くつもりです。まずはこの入門書を読んでみてください。
ところで、東大の駒場キャンパスへ出向いたのには、もうひとつ目的がありました。村松さんご自身が企画して立ちあげた、ダンヌンツィオ生誕150周年記念展覧会「ダンヌンツィオに夢中だった頃」が学内の博物館でおこなわれていたからです。
ダンヌンツィオについては、自分は名前を知っている程度でしたが、今回展覧会をじっくり見せてもらい、文学者として、政治家として、そして人間としてのあまりのスケールの大きさにびっくりしました。こんなに波瀾万丈な人生を送り、格調の高さと露悪趣味が混在する破天荒な作品群を残した人は、歴史上どこにもいないかもしれません。
展覧会は、ダンヌンツィオの生涯を多くの資料で回顧しつつ、日本に与えた影響なども紹介しています(展覧会のタイトルは筒井康隆氏による三島由紀夫論『ダンヌンツィオに夢中 (中公文庫)』を下敷きにしたものです)。とりわけ、晩年のダンヌンツィオが過ごした邸宅の写真や動画のおもしろさは尋常ではありません。村松さんも、ひょっとしたらダンヌンツィオが残した最高傑作はこの家かもしれない、とおっしゃっていました。
展覧会は12月1日まで。興味のあるかたはのぞいてみてください。ちょうど今週末の駒場祭がよい機会かもしれません。
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