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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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2013年6月 1日 (土)

『ダ・ヴィンチ・コッド』翻訳コンクールの結果について

 先日《The Japan Times ST》の紙上で開催された『ダ・ヴィンチ・コッド』翻訳コンクールの結果と講評が、いま出ている6月7日号(Vol.63 No.23)に載っています。癖のある難解な課題英文だったにもかかわらず、38名ものかたからご応募いただきました。ありがとうございます。優秀者3名のかたには、拙著『日本人なら必ず誤訳する英文』『日本人なら必ず悪訳する英文』のサイン入りセットをお送りします。

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 詳細については紙面を見てください。ここでは、記事に書ききれなかったことを少々補足します。応募した人以外にもわかるように書きますが、翻訳の初心者向きの内容になるのでご了承ください。

◎主人公ドングランの年齢については、本文に正確な記述がないのですが、『ダ・ヴィンチ・コード』のラングドンが40歳代なので、それと同等と考えるのが筋でしょう。ラングドンについて言えば、映画のトム・ハンクスは「ぼく」と言いますが、小説では「わたし」で、今回のドングランもそれに合わせて「わたし」にしてあります。

「わし」と訳した人がずいぶんいましたが、仮に60歳代、70歳代などであっても、安易に「わし」という訳語を選ぶのは禁物です。いまの時代に方言以外で「わし」としゃべる老人はほとんど見られないので、極端にじじくさくしたいのでもないかぎり、「わし」という訳語は選ばないのが無難でしょう

 ちなみに、私立探偵などが出てくるとなんでもかんでも「おれ」にしてしまう傾向が特に女性にありますが、これも考え物です。「おれ」にすることによって、かなりキャラクターはせばめられてしまうので、よほどぴったりの人物以外には使わない、ぐらいの気持ちでいたほうがいいと思います。

◎今回の課題英文で特に狙ったわけではありませんでしたが、否定省略文の読み方が苦手な人が非常に多いのをあらためて感じました。よかったら『日本人なら必ず誤訳する英文』を読んでみてください。全部で140問のうち、7問ほどをこのテーマにあててくわしく説明してあります。

◎翻訳の仕事を何年もつづけていて確実に言えるのは、辞書を引かなくてもよいほど言語に精通することはありえない、ということです。母国語である日本語についてすらそうなのですから、外国語については言うまでもありません。勉強すればするほど、仕事をすればするほど、辞書を引く回数は増えていくというのが実情です。キャリアの長い人ほど、そのことはよくご存じでしょう。今回は possiblities ということばが鍵となりましたが、初学者の人は、ちょっとでも気になったら辞書を調べる習慣を体に叩きこんでください。特に、本来抽象名詞であるものが複数形になっている場合は要注意です

◎「……」や「――」などの表記については、課題英文を載せた5月17日号でかなり細かく説明したにもかかわらず(つまり、訳文を提出した全員がその説明を読んでいるはずなのに)、今回の提出者でそのルールを守っていた人は半数以下でした。「――」2マスであるべきところを1マスにしたり、「ー」(音引き記号)や「_」(アンダーバー)にしたり、勝手に「…」や「、、、」に変えたり、さまざまです。

 今回は自由に楽しんで訳文を作ろうという趣向なので、あれこれ言うつもりはありませんが、もし将来なんらかの形で仕事につなげていきたいのであれば、まずはそういうところから直していってください。

 では、そういうルールはどこで教えてくれるのかと言うと、簡単なことで、世の中に出まわっている本、特に翻訳書でどのように書かれているのかを見て、そのとおりに真似ればいいだけです。

◎最後に、紙面で採りあげなかったみなさんの訳で、おもしろいと感じたものをいくつか紹介します。

・ritualism-ist と ritist の訳語(わたしの訳語は「儀式主義主義者」「儀式者」)

 「儀式シュギースト」「儀式ースト」(忠実です)

 「儀式主義者」「"ギ"主義者」(おもしろいですが、ちょっとわかりにくい?)

 「儀式家」「ピストン運動の儀式熟練家」(数回前にピストン運動の話が出てきたからですが、これはやりすぎ)

 「ぎしきしゅぎい者」「ぎいじつか」(くふうはわかりますが、意味がそれます)

・annagrammotologist の訳語(わたしの訳語は「アナグラモ学者」)

 「アンナグラム語の専門家」(忠実です)

 「つつつづりりりの音研究家」(これは笑いました)

 「暗コウ解読を専門とする学者」(このあと「どうしタラ」が出てきて、アンコウと並んで魚つながりがおもしろいです)

 「アナナグラムム学者」(わたしの訳語よりいいと思います)

 「過分解回文家」(すばらしい! ここだけなら最優秀です) 

 楽しい訳語が多く、こちらもいろいろとヒントをもらいました。あらためて、みなさん、ご応募ありがとうございました。

『ダ・ヴィンチ・コッドに挑戦!』の連載は、このあともつづいていきます。今後もよろしくお願いします。

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