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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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2013年3月 1日 (金)

第6回ミニイベントの報告

 ゆうべ、表参道のホールに80人以上が集まり、第6回翻訳百景ミニイベントが開催されました。ゲストは井口耕二さん。予告したとおり、「よい翻訳、悪い翻訳」について、わたしと井口さんが30分ぐらいずつ話したのち、クロストークとQ&Aという流れでおこなわれ、互いが本音を語る充実した2時間となりました。

 わたしがこのブログの開設当初から何度か書いている、歯応えとわかりやすさの問題については、産業翻訳やノンフィクションを手がける井口さんと小説の翻訳をおもな仕事とするわたしとのあいだで少々のちがいが見られました。また、英文の流れをなるべく崩さないようにつとめるべきだとわたしが述べたのに対し、総体として過不足なく情報を伝えるのが最優先だと井口さんが主張なさったのも、新鮮で大変参考になる考え方だと思いました。

 小説の翻訳においてフィート・インチとメートル・センチのどちらが自然と感じるかについて、参加者全員に挙手してもらったところ、フィート派が3分の1程度でメートル派が3分の2程度。わたしはフィート派で井口さんはメートル派です。参加者の多くが翻訳者や学習者で、英米の度量衡にあまり違和感がないことを考えると、一般の読者はおそらくもっとメートル派が多いと察せられます。多数派だからと言ってすぐにそれに合わせたほうがよいことにはなりませんが、強力な参考意見として心にとどめておくつもりです。

 わたしは30代の半ばぐらいまで留学カウンセラーや予備校講師などの仕事をしていて、さまざまな種類の文章を訳す機会がありましたが、15年ほど前に小説の翻訳をはじめて以来、ほかのものと接する時間が極端に減りました。翻訳に対する考え方も、知らず識らずのうちに文芸一辺倒のものとなっていたようです。今回の井口さんとのやりとりでは、長らく忘れていたことをいくつか思い出させてもらった気がします。

 その一方で、自分はやはり文芸翻訳者であり、そのことを誇りに感じているのも再認識できました。その意味でも、こだわる部分にはひたすらこだわりつづけていこうと思います。今回の参加者の方のアンケートのなかに、その思いを強くしてくれるものがあったので、紹介させてください。

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 たいへん充実した時間でした。「かまぼこ形論争」で思い出したのですが、現在20代の娘が「昔、翻訳ものの児童書でオートミールとかプディングとかいう言葉にすごく異国情緒を感じた。いみわかんなかったけど、あれをよくぞ "おかゆ" とか "おやつ" とかにしないでおいてくれたもんだ」と言いました。激しく同意しました。

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 ともあれ、事前の打ち合わせも調整もまったくなしに互いの主張をぶつけ合った2時間は、井口さんとわたしにとっても、参加してくださった多くのかたにとっても、有意義なものとなったようです。いくつかの技術的な面ではちがいながらも、読者が何を求めていて、そのためには何をしたらいいかを考えつづける姿勢は共通していたと思います。よい勉強をさせていただき、井口さんにも参加者のかたがたにも感謝しています。

 今後の翻訳百景ミニイベントとしては、5月ごろにおこなう予定のいくつかの企画が内定しています。詳細が決まりしだい、このブログに掲載します。

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