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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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2013年2月20日 (水)

『絵本翻訳教室へようこそ』

 今年は児童書の翻訳をいくつか手がけることになっているので、その参考にしようと思って、灰島かりさんの『絵本翻訳教室へようこそ』を読みました。

 これはカルチャーセンターでの授業を土台とした本で、1冊の絵本を数行ずつ読み進めながら、6人の生徒の訳文を叩き台として、絵本翻訳で注意すべき諸問題を、著者が生徒と読者に語りかける形でていねいに解説していきます。著者の絵本に対する愛情、翻訳に対する愛情が全編から伝わってきます。

 わたしの『日本人なら必ず悪訳する英文』の後半も、これと似た構成をとっていますが、このような形にすると、ともすれば、翻訳論に関してあれも書きたい、これも書きたいとなって、収拾がつかなくなってしまします。しかしこの本では、絵本翻訳にほんとうな必要な心構えや周辺知識がほどよく紹介されていて、読者が効率よく学ぶことができます。

 また、こういう訳し方もある、ああいう訳し方もある、といろいろな例をあげて、自由に翻訳することの楽しさを伝えながらも、原文の細部をていねいに読みこんでいない訳文ははっきりと否定する姿勢が貫かれていて、すがすがしく感じました。

 全体として強く感じたのは、子供向けと大人向けの本の翻訳技術のちがいよりも、根底ではほとんど変わらないということでした。もちろん、オノマトペ(擬声語、擬態語)を使うべき頻度とか、段落やセンテンスの切り方とか、個々の技術では異なる部分も少なくありませんが、それは対象読者が異なるから当然のことであり、翻訳という仕事に向かう基本姿勢や訓練の方向性はまったく同じだと思ったしだいです。

 その意味でも、これは児童書にあまり興味がない人にもお奨めできる本です。

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