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  • 越前敏弥
    文芸翻訳者。 いまのところ、更新は週1、2回程度です。 ご感想・お問い合わせなどは office.hyakkei@gmail.com へお願いします。
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2012年12月 8日 (土)

『解錠師』文庫化と各種ランキングでの順位

 スティーヴ・ハミルトン『解錠師』が、今年の年末の各種ランキングで以下の順位となりました。

 宝島社 このミステリーがすごい! 海外編  1位

 週刊文春 ミステリーベスト10   海外部門 1位 (詳細

 早川書房 ミステリが読みたい!   海外篇 2位 (詳細

 これにともない、急遽文庫化されて、きょうから書店に並んでいます。ポケミス版の訳者あとがきに少しだけ加筆しました。

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 この作品を読んで支持してくださったみなさん、ありがとうございます。

 ポケミス版の表紙から大きく変わったので、「これは……」と感じるかたもいらっしゃるかもしれませんが、翻訳ミステリーをふだん読まない人たちにも届かせたいという版元の願いがこめられていると思います。犯罪小説としてだけではなく、青春小説・成長小説としても強く心に残る作品なので、来月文庫化される去年の三冠作品『二流小説家』(デイヴィッド・ゴードン著、青木千鶴訳)ともども、日ごろ翻訳書を読まない人たちにぜひ薦めてください。

『解錠師』の翻訳者としてのコメントは《このミステリーがすごい!》に書いたので、よかったらそちらをご覧ください。このブログには、そこに載せられなかった、まったくの個人的余談を少しだけ書きます。

 スティーヴ・ハミルトンのデビュー作『氷の闇を越えて』が翻訳刊行されたのは、2000年4月。原書のリーディングをしたのは、わたしの初訳書が出て間もないころでした。主人公の探偵アレックス・マクナイトは元デトロイト市警の警官で、勤務中に銃弾を胸に受け、それを剔出できないまま退職を強いられます。その銃弾を心臓のすぐ横にとどめたまま、アレックスは「探偵になりたくない探偵」として、ためらいながらいくつかの事件を解決していくことになります。

『氷の闇を越えて』は「わたしの胸のなかには銃弾がある」という一文ではじまります。原書でこれを最初に読んだとき、なんだか他人事に思えず、もしこれがシリーズ化されるなら、ぜひ末永く付き合っていきたいと思いました。わたしの場合は、胸のなかに銃弾はありませんが、32歳のときにクモ膜下出血の手術を受けて以来、頭のなかにクリップがあるからです。この病気のあとで、あれこれ考えたすえ、翻訳学校にかよいはじめたわけですから、自分のとってこのクリップは、翻訳の仕事の原点のようなものです。すでに20年近くが経ち、いまではふだんはそんなものの存在すらほとんど忘れていますが、このシリーズのことを考えるたびに、動脈瘤が破裂した日のこと、入院中の日々のこと、そして、この世に何か残すために文芸翻訳の仕事をしようと考えはじめた日のことを思い出します。そんなこともあって、これは自分にとって大きな意味を持つシリーズであり、同い年のハミルトンは忘れがたい作家です。

 アレックス・マクナイト・シリーズは年に1作ぐらいのペースで書き継がれましたが、 『氷の闇を越えて』のあと、日本で翻訳刊行されたのは第2作『ウルフ・ムーンの夜』と第3作『狩りの風よ吹け』までです。その後、本国では第7作まで書かれ、ハミルトンはシリーズをいったん中断してスタンドアローンの作品を2作上梓しましたが(保護観察司を主人公とした "Night Work"と『解錠師』)、『解錠師』がMWAをはじめとする各賞をとったのをひと区切りと考えたのか、マクナイト・シリーズにもどって新作を連発し、来年には第10作が出る予定です。8作目以降はわたし自身もまだ読んでいないのですが、『解錠師』で"大化け"したと言われるハミルトンがどんなふうに変わっていくのか、今後が楽しみです。

 一度翻訳刊行が打ち切られたシリーズを復活させるのは至難の業ですが、自分にとって思い入れの深い作品でもあり、いつかまた日本で紹介できる日が来ることを祈っています。

 スティーヴ・ハミルトンのサイトはこちら。今回、週刊文春に寄せたコメントはこちらです(《このミス》へのコメントは掲載誌をご覧ください)。ベストセラー作家となったいまもなお、IBM社に在籍しています。トップページにある"Die a Stranger"はシリーズ第9作です。

 

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