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  • 越前敏弥
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2012年12月25日 (火)

『英和翻訳基本辞典』について

 宮脇孝雄さんの『英和翻訳基本辞典』(研究社)が先日発売されました。これは翻訳者・学習者はもちろん、多少とも語学や海外文化に興味がある人にはぜひ読んでもらいたい本です。

 宮脇さんが《週刊ST》に約20年にわたって連載なさったコラムは、これまで、『翻訳家の書斎―「想像力」が働く仕事場』、『翻訳の基本―原文どおりに日本語に』、『続・翻訳の基本』の3冊に分けて出版されてきました。今回の『英和翻訳基本辞典』は、それらに収録されなかったものに新たな記事を加え、見出しをアルファベット順にして再構成したものです。500ページ近くあり、前の3冊をすべて合わせたぐらいの情報がぎっしり詰まっています。

 最初の『翻訳家の書斎』が出たころ、わたしはまだ新人で、そこに載っていた調べ物のコツや単語・熟語に関する背景知識などを大いに参考させてもらいました。残りの2冊が出たときも、誤訳や悪訳をできるかぎり減らすための強力な武器として、みずから何度も読み返すとともに、同業者や生徒たちにもずっと推薦しつづけてきました。

 今回出た『英和翻訳基本辞典』は、いちおう辞書の体裁にはなっていますが、これは隅から隅まで繰り返し熟読すべき本です。たとえば、academic という見出し語の下には「すぐ思いつく訳語」として、「アカデミックな、学術的な」とあり、その下に「もしかしたら……」として「空理空論」という訳語が紹介され、そのあと、この語に関する説明や具体的な誤訳例が並んでいるという具合。ほかの見出し語では、「辞書にある訳語」の下に「豆知識」があったり、「誤った訳」の下に「正しくは……」があったり、微妙に構成がちがう場合もありますが、いずれにせよ、英文を正しく読んでいくための情報が満載で、どの項目も読み飛ばせません。それでいて、もともとがよい息抜きになるようなコラムだったこともあり、読みつづけても疲れないくふうがされています。ごくふつうに読み物としても楽しめます。

Photo

 翻訳者が仕事の質を高めていくためにも、語学学習者が正確な知識を身につけていくためにも、必携の1冊です。わたしもこれから繰り返し読みこんでいくつもりですが、すでに何十もの項目で冷や汗を流しました。残念ながら『翻訳家の書斎』はいまは入手がむずかしいのですが、『翻訳の基本』、『続・翻訳の基本』も合わせて、じっくりお読みになることをお薦めします。

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