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  • 越前敏弥
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2012年8月28日 (火)

チューダー王朝弁護士シャードレイク

 先週刊行された『チューダー王朝弁護士シャードレイク』について、ひとこと。

 これはイギリスでベストセラーとなっている歴史ミステリー、マシュー・シャードレイク・シリーズの第1弾です。主人公のシャードレイクは、16世紀前半、ヘンリー8世治下のチューダー朝で権力者トマス・クロムウェル卿に仕える弁護士で、本作では腐敗が進む修道院で起こった監督官の殺人事件を解決します。

 ミステリーとしてのプロットのおもしろさももちろんじゅうぶんに楽しめますが、この作品、そしてこのシリーズの最大の魅力は、社会的強者の立場にある一方で背中に障碍をかかえているシャードレイクが、絶対の上司であるべきクロムウェルの恐怖政治に内心で疑問を感じたり、若い女性にかなわぬ恋情をいだいたりするというような、あまりにも人間くさい描写がぎっしり詰まっていることだと思います。

 修道院が舞台のミステリーということでは、『薔薇の名前』や修道士カドフェルのシリーズを思い浮かべる人が多いでしょうが、本作は『薔薇の名前』ほどのペダンティズムはなく、一方、カドフェルシリーズよりはかなり重厚な作りになっています。宗教改革の荒波のなかで苦悩する修道士たちや役人たちの心の動きがあまりにも生々しく描かれた作品です。

 時代背景が日本人にはややわかりにくいかもしれませんが、『ブーリン家の姉妹』や『ウルフ・ホール』をお読みになったかたにとっては説明不要でしょう。また、少し前にAXNミステリーで放映されていた〈チューダーズ・背徳の王冠〉のシリーズがすでにDVD化されているので、この機会にご覧になることをお勧めします。訳者あとがきには、時代背景についての説明を3ページほど入れたので、この時代にあまりなじみがないかたは、まずそちらをお読みください。

 シャードレイクのシリーズが出るという話を仲間内でしたところ、3人か4人の同業者が、実はいま、これに近い時代を舞台とする作品を訳しているという話をしてくれました。ちょっとしたブームになるかもしれません。

 マシュー・シャードレイク・シリーズは、この『チューダー朝弁護士シャードレイク』をはじめとして、イギリス本国ではすでに5作が出版されています。第1作の本作は、CWA(英国推理作家協会)のジョン・クリーシー・ダガー(最優秀新人賞)とエリス・ピーターズ・ヒストリカル・ダガー(最もすぐれた歴史ミステリーに贈られる賞)の両賞の候補作となりました。第2作 Dark Fire は、第1作から3年後の1540年のロンドンを舞台とした作品で、こちらは上記のヒストリカル・ダガーをみごと受賞しました。さらに、2007年には、このシリーズ全体が評価されて、CWAの図書館賞を受賞しています。

 日本では、いまのところ第2作 Dark Fire までの刊行が決定しています。どうぞよろしく。 
 

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