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  • 越前敏弥
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2012年3月23日 (金)

「オズの魔法使い」シリーズについて

 復刊ドット・コムからつぎつぎ刊行されている「オズの魔法使い」シリーズの第5巻『オズへの道』で、帯などに推薦文を書かせてもらいました。

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 復刊へのいきさつや、シリーズ全体の概略については、訳者チームのひとりである宮坂宏美さんのこの文章にくわしく書かれています。

 多くの人たちとおそらく同じでしょうが、わたし自身も、このシリーズの刊行の話を聞くまで、「オズの魔法使い」の話は1冊だけだと思いこんでいたので、14巻+番外編が存在するのを知って驚いたものです。しかし、今回、2巻以降をつづけて読んで、なぜこのシリーズがそんなに長くつづいたのかがよくわかりました。どうしてもつぎを読まずにはいられなくなる魅力がたくさん具わっているのです。

 第1巻『完訳 オズの魔法使い 《オズの魔法使いシリーズ1》 』については説明不要かもしれません。竜巻によってカンザスから魔法のオズの国へ飛ばされてしまったドロシーと愛犬トトが、旅の途中で知り合ったかかしとブリキ男とおくびょうライオンというおなじみの面々とともに、それぞれの願いをかなえてもらうために、大魔法使いのいるエメラルドの都へ向かう話です。わたしも以前子供たちといっしょに何度も読み、わくわくする高揚感と、とぼけたようなユーモアとを存分に楽しみました。そのふたつが入り混じった、ちょっと奇妙な味わいこそが、この作品、このシリーズの大きな魅力だと思います。

 第2巻『完訳 オズのふしぎな国 《オズの魔法使いシリーズ2》 』は第1巻の直接の続編ではなく、主人公はチップという男の子ですが、かぼちゃ男のジャック、ノコギリ馬、拡大クルクルムシなどなど、第1巻に劣らぬ個性的なキャラクターが現れ、第1巻の登場人物も何人か登場します。そして、あまり大きな声では言えませんが、終盤に鮮やかなどんでん返しがあって、大人のミステリーのファンもじゅうぶん楽しめます。

 第3巻『完訳 オズのオズマ姫 《オズの魔法使いシリーズ3》 』では、読者の要望に応えてドロシーがふたたび登場し、初登場のキャラクターたちとともに、オズの国の新たな管理者となったオズマ姫のもとへ向かいます。後半のノーム王との対決が圧巻で、ちょっとした謎解きで読者の興味を最後まで失わせない技巧もみごとです。

 第4巻『完訳 オズとドロシー 《オズの魔法使いシリーズ4》 』は、地下の国へ落ちてしまったドロシーたちがさまざまな冒険を繰りひろげる話で、第1巻で登場したあのオズの魔法使いが久しぶりに登場します。脱出するまでに、つぎつぎと奇妙な生き物や物体に出会うのですが、よくこんなにあれこれ思いつくものだと感心させられます。 

 そして今回刊行された第5巻が『完訳 オズへの道 《オズの魔法使いシリーズ5》 』。第1巻に登場したきりになっていたドロシーの愛犬トトがついに再登場を果たします。タイトルのとおり、みんなが一本道を進んでまたオズをめざす話で、新たに紹介される不思議な生き物たちの数はこれまでの4作のどれよりも多く、シリーズのキャラクターが一堂に会するオズマ姫の誕生祝賀会の場面は、このシリーズの最大の山場と言えるでしょう。

 大人も子供もこのシリーズに夢中になれるのは、作者が脇役たちの隅々にまで並々ならぬ愛情を注いでいるからだと思います。登場する人や生き物のだれひとりとして、単なる悪者としては描かれず、なんとなく憎みきれなかったり、いつの間にか許されていたりという展開が、けっしてご都合主義には感じられず、むしろ読者はその「ゆるさ」に圧倒的な安心感を覚えながら物語の流れに身を委ねていけるのです。こういう読書体験は久しぶりだったので、よい機会を与えてもらって感謝しています。

 もうひとつ言っておきたいのは、いまの時代、翻訳書のシリーズ物を全巻読めるというのは、それだけで非常に貴重だということ。わたし自身の訳書でも、原著がいまもつづけて出されているのに、おもに商業上の理由から翻訳刊行を打ち切らざるをえなかったシリーズがいくつもあります。全14巻+番外編の刊行を一気に決めて2年で出すという今回の心意気に拍手を送ります。

 最後に、『Six-Words たった6語の物語』から、『オズの魔法使い』を下敷きとした six words をひとつ紹介しましょう。

   Followed yellow brick road. Disappointment ensued.

 【黄色い煉瓦道を進んだ。結果は失望。】

 この人の向かった先に Emerald City はなかったのかもしれません。

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